主人公聡子は、12個の人格を持ち合わせた青年と恋に落ちる。12人のうちの一人を好きになり、別の人格からも思いを寄せられる。プリズムというのは、多重人格者の比喩だ。
人間には誰しも、多面性がある。
聡子もまた、職を変えたり、家族との関係を考え直したり、人生の節目にいた。自分の中の多面性に揺れ動きながら、青年と心を通わせていたのだろう。
多重人格の原因は虐待という設定だった。治療の過程で、人格が統一されていき、聡子の愛した相手は消えてしまう。死別にも似た哀しく切ない別れ。それに歩調を合わせるように、彼女も自分の人生を歩み直すことを決める。
揺れ動く女性の心理描写も秀逸で、とても読みやすい。解離性同一性障害の視点で読むもよし、恋愛小説として楽しむもよし。男女問わず、楽しめる本だと思う。