公立中学の滑り止めだった私立中学で、「1冊の文庫本を3年間かけて読む」という異例の授業を行った教師がいた。
その教師の名前は橋本武。
橋本は「銀の匙」という文庫本を興味がある部分で横道にそれながら、主人公の少年時代を追体験していく授業を展開する。
駄菓子屋のシーンで実際に駄菓子を食べながら朗読、凧揚げのシーンで1から凧を作って揚げる。
生徒たちは体験を通じてスローペースで物語に没入し、楽しみながら学んでいく。
そんな異例の授業は、カリキュラムや効率重視の現在の国語教育へのアンチテーゼにも見えて非常に面白い。
教え子たちは皆、学ぶ力の背骨となっているのが橋本の授業だと語る。
様々な事象に興味を持つ。興味があることを徹底的に調べる。楽しみながら挑戦する。
中学時代を通して読み込んだ文庫本1冊が、大人になっても人生の素地になっている。
今の国語教育には類を見ないことで、非常に興味深い。
「すぐ役立つことはすぐ役立たなくなる」
文中の橋本のこの言葉が頭をよぎる。
今はまだ学歴、偏差値主義な世の中だが、今後は様々な事象に興味を持ち、どんどんチャレンジできる人間が価値を産む。
今こそ「横道にそれながら、ゆっくり学ぶ」教育が必要なのかもしれない。