本書は、脳科学の視点から、「よりよく生きるとは何か」を考えることをアウトリーチ活動のテーマとしている著者が、脳についての知見を26の小ネタとしてまとめたものである。著者は、一般の人にもわかりやすく、脳の最新の知見を紹介する著書をいくつか出版している脳研究者の池谷裕二氏だ。
本書は全26章から構成されているが、著者が言うように本書のバックボーンとなっているのは、次の3つの章である。
第11章 脳は妙に笑顔を作る | 「まずは形から」で幸福になれる!?
第22章 脳は妙に不自由が心地よい | ヒトは自分のことを自分では決して知りえない
第26章 脳は妙に使いまわす | やり始めるとやる気が出る
この3つの章に、著者の脳観が描かれており、本書に込めた著者のメッセージを捉えることができる。
第11章の「脳は妙に笑顔を作る」では、有名な実験だが、箸を横に加えて笑顔の状態を作ることで楽しい気持ちになるということから、楽しいから笑顔になるのではなく、笑顔を作るから楽しいという逆因果を紹介している。
また、第22章では、自由に自分の意思で決めたつもりでも、実は本人が自覚できない癖があり、本当は無意識、潜在意識の中ではすでに決まっているという、これまた不思議な脳に関する知見が紹介されている。80%はお決まりのパターンであり、習慣なのだという。
そして、第26章では始めてしまえばやる気がでるという、これもまた脳の不思議な仕組みについてだ。私の場合だと、何をするにも面倒くさい、とにかく行動するのが面倒くさいのだが、どうにか始めてしまえば集中してやり続けることができる。私の実体験からも脳はそういった仕組みになっているのは間違いない。
この3章だけでも面白くて役立つものだが、特に第26章の始めてしまえばやる気が出るというのは、仕事にも応用できるので、工夫をすることで、かなり生産性を上げることができるはずだ。
本書には、これら以外にも面白くて役立つ脳の小ネタやよりよく生きるためのヒントがちりばめられている。脳について感心がある方はもちろん、脳の仕組みを知ることでよりよく生きたいと考えている方にもおすすめしたい一冊である。