『装幀談義』著者:菊地信義(ちくま文庫、1990/4/24)
「装幀家」という職業をご存じだろうか。本のコンセプトに合わせて、カバーやオビのデザイン、紙の種類を考える、一言で言えば本の顔を作る職業のことだ。著者のように大きくカバーに名前が載ることはないけれど、著者の伝えたいことを「本」としての形に具現化するために欠かせない仕事だ。たいていは奥付(著者名や出版社名、出版年月が書かれた部分)ページに、装幀家の名前もひっそりと書かれているので、家にある本を見てみてほしい。
さて本書は、日本で最も有名な装幀家のひとりである、菊地信義氏が自身の仕事について語ったものである。中上健次や島田雅彦、吉本隆明などの自身が手掛けた本の実例も交えながら、本の素材、書体、イラスト、レイアウトについて、菊池氏がデザインする中で考えていることについて記されている。
菊池氏は最後に、「本は心を作る道具」と語る。その言葉が表すように、菊池氏の姿勢からは、一貫して本をある種神聖なものとしてとらえ、畏敬の気持ちすら抱いていることを感じた。原稿という情報を、それぞれ一番ふさわしい「もの」としての本に仕上げるため試行錯誤する姿はまさに職人のようで、感動を覚えた。
本書は30年近く前に書かれた本だ。2017年現在、本を取り巻く環境も業界も、大きく変わっている。古い情報はあるけれど、それでも本質的な部分は今読んでも共感できる。電子書籍が増えた今でも紙の本を愛読する読者ならば必ず面白いと思えるだろう。単なる情報としてではなく、厚みと質感がある物としての本を愛する人に、ぜひ読んでいただきたい。