本書には、カリスマ経営者、プロ野球監督、政治家などの有名人が使った、相手の気持ちを強く惹きつける「殺し文句」が紹介されている。さらにそれらがいつ、どのような状況で発せられたフレーズなのか分かるように、前後のエピソードについても解説されている。
それだけなら、名言を集めただけの本になってしまうのだが、本書がそういった名言集と違うところは「殺し文句」を分析し、法則化したところにある。あなただけを強調する、相手の利益をる、二者択一で問いかけるなど、とにかくこれは使える!という法則が10も紹介されているのだ。
法則の中でも、「プライドをくすぐる」で書かれている大正時代の総理大臣・原敬は、相手のプライドを満たすことが上手かった。総理大臣の元には毎朝数十人もの陳情客が来るのだが、朝一番の客には、「君の話は、いの一番に聞かねばならんと思ってね」と語り、最後の客には、「君の話はゆっくり聞かなければならないと思って、最後までお待ちいただきました」と語ったという。
このエピソードには、なるほどと思ったのだが、目上の人や社会的地位が高い人からの言葉だと、かなりプライドがくすぐられ、自己重要感が満たされる。その結果として、言われたほうの人間は、相手に好意を持ち、言うことを聞くようになるのだ。
これは一つの例だが、本書には他にも日常で使える「殺し文句」が紹介されている。それらを参考に、現在の自分の立場なら、上司や部下などに対して、あの人にはこう言ったら効果的かもと考えながら読むのも、本書の楽しみ方のひとつだろう。
著者は、コピーライターであり、過去には『あの演説はなぜ人を動かしたのか』(PHP新書)を出しているので、人の気持ちを強く惹きつけるフレーズにかなり詳しい。
読後には、自分も「殺し文句」言ってみたい!という気になっている。どうしてあのとき気の利いた言葉が言えなかったのだろうと悔やんだことがある人や、ここぞというときのひと言が知りたい人はもちろん、円滑な人間関係を作りたいという人にもオススメの本である。