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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】多数派の存在が論理的に意味するものは、それと対応する少数派の存在である。『マイノリティ・リポート―ディック作品集』

SF界の鬼才フィリップ・K・ディックは、優れたアイデア・ストーリーを多数著した。
表題作「マイノリティ・リポート」は、トム・クルーズ主演、スティーブン・スピルバーグ監督で2002年に映画化されたが、その設定はやはり特異なアイデアによって成り立っている。
プレコグと称される予知能力者3人の能力を元に予測された犯罪を未然に防ぐ為に容疑者を潜在的犯罪者として確保、収容所送りとする犯罪予防局が設立され、重犯罪は99.8%も減少した。現実の殺人はもう5年間も起こっていない。
設立者であり、犯罪予防局の長官を務めてきたアンダートンは、公認の候補として補佐の任を受けたウィットワーが赴任されてきたその日に、思ってもいなかった災厄に見舞われる。
予知分析カードには、自らの犯罪が書き記されていたのだ。それも全く知らぬ人物を翌週の内に殺害するという内容だった。
これは自分を陥れようとする陰謀に違いないと断じたアンダートンは逃亡を図る。謀ったのは誰か? カードに細工をしたのは内部の者に違いない。それは誰だ。目的は?
当局に手配をされ、警察に追われながら、自らの潔白を晴らそうとするアンダートンだったが、もしこの予知が間違いならば、これ迄の措置にも同様に誤りがあったのかと自己矛盾に陥り込むのであった。

ディックの文体には、端正と言って差し支えないであろうクールさがある。クレバーで余計なものを削り取った言葉選びには、読者を物語の先へと導く力がある。
読者は、SF短篇ならではの謎にはまり、先を急ぐ登場人物がどう行動するのかが気になって仕方がなくなるのだ。次は次はと、あまりに立て続けに読んでしまう。その為、短篇だと多少物足りなさを感じてきてしまったので、次は長篇作を読むことにしよう。
そんな切れ味鋭く小気味の良い全7篇の短篇の中には、『トータル・リコール』としてアーノルド・シュワルツェネッガー主演でポール・バーホーベン監督により1990年に映画された。2012年の再映画化の際にはコリン・ファレル主演、レン・ワイズマンが監督を務めた「追憶売ります」も含まれている。
そして、「安定社会」はディックのデビュー作なのである。

収録作品
マイノリティ・リポート The Minority Report(1956)」
「ジェイムズ・P・クロウ James P. Crow(1954)」
「世界をわが手に The Trouble With Bubbles(1953)」
「水蜘蛛計画 Waterspider(1964)」
「安定社会 Stability(1987)」
「火星潜入 The Crystal Crypt(1954)」
「追憶売ります We Can Remember It For You Wholesale(1966)」

マイノリティ・リポート―ディック作品集
作者:フィリップ・K. ディック
発売日:1999年6月30日
メディア:文庫本