人に薦めてもらわなければ、手に取ることを躊躇するようなタイトルの本ですが、1行目からパンチラインよろしく、「この本は人がなぜそれを欲するのかについて書いたものだ」と、非常に哲学的。本書ではルネ・ジラールというフランス出身の哲学者の「模倣理論」について、実業家のルーク・バージス氏が実例を交えて紹介してあります。
模倣理論は、人が何かを欲するのは、自身の意思でも生物学的な誘因でもなく、真似によるものだという考え方です。ルネ・ジラール氏が興味を持ったのは、マズローの欲求階層で言う、生理的欲求、安全的欲求より上の階層の欲求がどう生まれるのかについて。欲求の三角形とも呼ばれる理論では、人はモデルを介して対象を欲するようになる、そのモデルの真似をしているのだそうです。
具体例では、ビールを飲みたいと思ってバーに入ったあなたが、友達が頼んだマティーニを見て、急に同じものを飲みたくなるという日常的な話から、いわゆるペイパルマフィアのピーター・ティール氏が、欲望の増幅装置としてフェイスブックへの投資を決めた話、ランボルギーニがフェラーリに対抗して圧倒的なスーパーカーを作り上げた話などの夢のある実例も。なんとあのスティーブ・ジョブズ氏までもが、学生時代にある同級生の部屋に踏み入れてから、その人をモデルにイノベーションの権化へと変貌を遂げていったというエピソードまで紹介してありました。
一方で、戦争やヘイトのような胸糞悪くなる話もあり、読み進めるとなんとなく模倣ってやだなぁ、という気持ちがしてきますが、安心してください。本書では模倣の欲望に抗う方法はもちろん、それを味方につけるアドバイスも紹介してあります。
読み終わった後に、これはとんでもなくスゴイ理論だ、とルネ・ジラール氏の他の著書に手を伸ばしたくなること請け合いですが、これがまたとんでもなく難解。私のような一般人が彼の思想に触れる端緒にとしても非常に意義深い1冊だと感じました。
あれ、そういえば私がこの本を読みたいと思ったのも、誰かをモデルにしてたからかしら。