一言で言う。この本は、「読書への誘い」の本である。多くの人は、「ニュース=情報収集」だと思っている。筆者ロルフ・ドベリは、このイコール関係を断ち切るために、この本を執筆した。自身の経験、学者による調査結果をもとに、いかにニュースが不要か、を展開している。しかしこの本、ドベリさんはニュース不要だと言っているが、彼自身がニュース中毒者だった、という話から始まるから面白い。「ニュースを見たことがあるよ」という人は、ぜひご一読頂きたい。
まず、この本で注目すべきは、ニュースのデメリットを、人間の心理と結びつけて解説している点にある。その心理とは、「思い込み」である。人間は、実に多種多様な思い込みを持つ。結果が起きてから、「その事って予測できたよね?」と思う。例えば、電車の遅延がそうだ。人身事故が起きて大幅に遅れた時、「こんなことならほかの路線で行けばよかった」となる。冷静に考えると、人身事故が起こるなど、ほとんど予測しようがない。だが、人間はこのような思い込みを持つことに気づかないのだ。筆者は、「ニュースがこのような思い込みを増やす」とし、この思い込みから抜け出す方法を解説している。実に、勉強になる。
とは言うものの、ここが真骨頂なのだが、この筆者は記事自体を完全否定している訳では無い。確かに筆者は「ニュースを絶とう」と言っている。しかし、それは、「ニュースがもたらす、集中力と思考力の低下」が問題であり、それを養う記事も存在している、と言うのだ。ニュースが思考力と集中力を低下させる理由は本文に譲るが、思考力と集中力を養う記事というのは、専門家が調査や研究を元にして執筆した科学誌である、というものだ。つまり、その長い記事を読み自分の考えをめぐらすことに、本当の価値がある、と筆者は指摘している。実に、本質的だろう。
さて、この筆者であるが、スイスに住んでいる、ライターである。ザンクト・ガレン大学を卒業後、スイス航空の子会社で最高財務責任者を務めた。本書によると、以前はかなりのニュース中毒者だったらしい。この本は、ビジネスマンや経営者、はたまた子供の親におすすめだ。特に子供について、最近は入試で時事問題が出る。ここでの懸念は、ニュースを見ることで色んなことを知っていると錯覚することだ。子供のうちにこれを身につけてしまうと、人生が台無しになりかねない。そのことを、本書を通じて、大人が教えて欲しいのだ。
「ニュースは僕にはいらん」というのが僕の感想だ。それより、読んでて面白いのは、本だ。本を読んで、自分で考えることが、読書の本当の価値。そのようなことを教えてくれる、1冊である。ぜひ手に取ってみては、いかがだろうか?
参考文献
ロルフ・ドベリ(2021)『News Diet』安原実津(訳) サンマーク出版