皆さんは「発達障害」について、どのようなイメージを持っているだろうか?最近、何かと「発達障害」が何かと話題になっている。いつだかの24時間テレビでも自閉スペクトラム症(ASD)が取り上げられ、書店でも「発達障害系」の本が並んでいる。テレビ番組といい、書籍といい、中身を見てみると、どうやら彼らには、強みと弱みの差が大きいだけで、驚くほどの才能を持っていることが見受けられる。言い換えれば、一昔前には「発達障害の人はこういうことができないよね」「この部分で苦労するよね」となっていたが、最近の流れは逆なのだ。「こういう部分は苦手だけど、逆にこの部分はかなり得意よね」ということが、身近に起きている。なので、最近は「自分を受け入れましょう」という形になりつつある。というか、それ以前に、「障害ではなく、一種の性格の凸凹」という見方も出てきている。僕自身、どちらかというと、今まで「発達障害」と言われてきた特性をいくつか持っているが、そのような特性を持っているから得意なこともある。この本を読んで、自分の特性について理解が深まった。今回は、どのような部分が役に立ったのか、面白かったのか、ということを紹介していく。
まず、この本で最初に取り上げているのが、「発達障害」への理解である。特に「困っていること」だ。この世の中の尺度から行くと、「発達特性」は不利になりやすい。コミュニケーションやその行動の異質性から、仲間外れにされやすいのだ。なので、この本では、その特性を持っていることで、どのようなことに困ってるのかを、紹介している。そのなかで、僕も筆者も口を大にして言いたいのが、「性格に問題で片づけられることが非常に多い。しかし実際は脳や遺伝子のレベルなので、直そうと思っても周りも自分自身も苦労しか待っていない」ということだ。例えばASDを持っている人は、コミュニケーションで問題を特に抱える。共感するという概念自体が少ないため、一方的になりやすい。僕も、脳の構造はASDと診断される人と同じと医者から言われたことがある。これらのことを含めて、筆者がここで強調しているのが、「何故」を深掘りし、理解していくことが重要だ、ということである。
そして、ここからが本書の真骨頂だが、この「発達特性」といわれているものは、何とかなり役立つ場面が多し、なのだ。例えば、ASDが顕著な人なら、その分感覚が優れていることが多い。絶対音感のような聴覚の鋭さを持っていることもある。なので、音楽の分野で活躍できる可能性が高い。また、その共感力の少なさからくる圧倒的論理力で、数学を極めて活躍できる人もいる。僕自身共感力は低い。しかし、そのおかげで学問に興味を持ち、今では数学の問題をたくさん解き、本も読んでいる。そして、このような書評も書けるのだ。他にも例としては、本書ではないが、ジェフ・ベゾスの例やイーロン・マスクの例が載っている。彼らが得意なのは、何と数学なのだ。抽象的な思考が得意なASD、という人もいる。僕自身、数学を勉強している。これは知覚統合という分野に関係するのだが、ここから語り始めるときりがないので、また今度の機会に記述する。少し脱線したが、要は「ASDだろうとADHDだろうと、その分かなり得意なことも存在するため、そっちを伸ばしたほうがいいんじゃないの?」ということを述べているのである。
本書を書いた井出正和は、国立リハビリテーションセンター研究所の研究員だ。専門は実験心理学である。立命館大学大学院の心理研究科で博士課程をとっている、心理学の博士である。MRIを使い、感覚過敏や感覚鈍麻についてのメカニズムを研究している。著書に『科学から理解する自閉スペクトラム相の感覚世界』がある。
本書は、ぜひとも、これからの時代を生きる人間として、ぜひ手に取って、読んでほしい。そのくらい、この本は、発達特性についての理解につながる。僕自身、かなり助かった。読めば、特性を持っている人の世界を疑似体験できる。これを機に、ご一読してはいかがだろうか?
参考文献
井出正和(2022)『発達障害の人には世界がどう見えるのか』SBクリエイティブ