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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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真のリーダーシップとは『小説 上杉鷹山』

1961年、第35代米国大統領に就任したジョン・F・ケネディは、日本人記者団からこんな質問を受けた。「あなたが、日本で最も尊敬する政治家はだれですか」ケネディはこう答えた。「上杉鷹山(ようざん)です」この上杉鷹山という人物、聞き覚えがない方も多いのではないでしょうか。では、この言葉は聞いたことがあるのではないだろうか。

「成せばなる、成さねばならぬ何事も 成らぬは人の、なさぬなりけり」

これは、米沢藩主上杉鷹山が家臣に示した和歌の一部である。鷹山は、財政が困窮していた米沢藩主として、実に17歳にして行政改革に着手し「人民の人民による人民のための政治」を行った人物である。そしてこの童門冬二氏による「小説 上杉鷹山」は、江戸時代の屈指の為政者として、困窮した米沢藩を見事立て直した上杉鷹山の活躍を、史実を元に小説に仕立てた作品だ。ここで一つ、心に残る場面を紹介したいと思う。財政改革の一貫として自ら率先し農地の開墾に訪れていた治憲(鷹山)の一行。とある酒の席で、一介の町娘である千代は勇気を振り絞り、治憲にこう問いかけた。


「せめて、お酌だけでも、私どもにさせていただきとうございます」
しかし、治憲は微笑を振っていった。
「せっかくだが、ならぬ」
落胆と多少の怒りで、千代が、(ああ、やっぱりあたしたちの身分が卑しいからだ)
と、思ったとき、治憲は千代を見てこういった。
「勘違いするな。そのほうたちが町人ゆえに酌をさせないのではないぞ。この酌は、誰もさせられぬのだ。つまり、私以外、酌をしてはならぬのだ」
そして治憲は、
「このような苦痛を味わせるのは、あげてこの治憲に藩主としての力がないためである。許してくれ」
そう話すと、ひとりひとりの侍たちに労いの言葉を掛けながら自ら酒を注ぎ始めたのであった・・・

 

正に自分に厳しく人に優しくといった精神の象徴のような人物だ。

自ら助ける、すなわち「自助」
近隣社会が互いに助け合う、「互助」
藩政府が手を伸ばす、「扶助」


鷹山は、この「三助」の方針で物質的にも精神的にも美しく豊かな共同体を作り出したのである。「徳」と「信頼」と「愛」をもって自ら率先し、根気強く改革していく鷹山の生涯を描いたこの作品。経営者の理想像、本当のリーダーシップとは何か、多くの学びを得ることができる珠玉の一冊だ。

 全一冊 小説 上杉鷹山 (集英社文庫)

全一冊 小説 上杉鷹山 (集英社文庫)