「あ、そうだ、日本はまだ現金しか使えないことをすっかり忘れていたわ」「日本はこういうところは結構遅れているんだねぇ」
2020年のオリンピックを控え、外国人観光客の増加が見込まれる日本にとって、耳の痛い言葉だ。上記は中国語での会話である。
本書は中国で急速に進んでいるキャッシュレス化の現状や背景、結果生まれた変化と今後の見通しを現地視察等を踏まえ語っている。
まず中国のキャッシュレス化の現状だが、デパートから屋台、都心部から農村部まで浸透している。驚くことに年金や慶弔金もキャッシュレスだ。それを支えているのがWeChat PayやAlipayなどだ。QRコードとスマホで簡単に決済できる。17年3月時点で合わせて約12億人が使っており、16年の決済額は約600兆円だから驚きだ。
日本ではいまだに現金決済が主流の中、なぜ中国でここまで急速に進展するのか。そこには「決済上の課題」「技術的な支え」「受け入れられる価値観」があった。
中国では文化大革命などの影響で性悪説が前提の中、長年ニセ札が横行しており、人々は安心して商取引ができなかった。不信社会なのであった。
そこを支えたのがWeChat PayやAlipayだ。両社はQRコードを用い、疑心暗鬼の顧客の間に入り円滑に決済できる仕組みを構築した。中国では固定電話が広まる前に携帯電話が広がり通信網が整備され、スマホもすぐに浸透し、商品・地域を問わず、QRコードでの決済が広まった。後発者利益だ。
またお金はあくまで交換手段だ、という価値観も浸透を早めた。お金そのものに価値を求めがちな日本人とは大きな違いだ。
このようにインターネット企業を介したキャッシュレス化が進むことで、これまでの不信社会も大きく変わろうとしている。その代表がAlipayの「芝麻(ゴマ)信用」だ。自社の決済システムを利用した顧客からデータを収集し、自動分析し点数化するのだ。シェア自転車をちゃんと返したか?公共料金やネットショッピングの代金を延滞なく払ったか?などのデータだ。身分証によって常に管理されることに慣れている中国人にはポジティブに受け入れられているようだ。
この仕組みが広がっていけば万引や賄賂などの犯罪も減り、人々のモラルも劇的に良くなるだろう。経済発展で人々も成熟していることも踏まえると、とてつもないポテンシャルを感じる。
未だに日本ではATMで利息が軽く吹っ飛ぶくらいの手数料で現金を下ろし、コンビニのレジに現金決済の列ができている。非効率的すぎる。私は財布を持ち歩くのをやめ、決済はApple payとクレジットカードのみとし、擬似キャッシュレスを進めている。
中国からも学び、より便利で安心な社会になることを願っている。また、先入観を捨て、中国の人々と関係を深めていくことが今後の日本の発展のカギになるだろう。
- 作者: 中島恵
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2017/10/11
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