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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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野生と知性の融合!『ヒストリエ』 著者 岩明均 (アフタヌーンコミックス、2004/10〜)

舞台は古代ギリシアマケドニアが台頭し始めた時代。マケドニアといえば、誰もが知るアレクサンドロス大王がいるが、本書の舞台は彼の台頭の少し前、フィリッポス王の時代から始まる。主人公は、スキタイ(軍事力の非常に高い騎馬民族)の青年、エウメネスである。フィリッポスに直接才能を見込まれた彼は、そのまま登用され、マケドニアで活躍する。その彼の日常と戦争をメインに、本書は描かれる。

エウメネスの生涯は、かなりドラマチックである。彼は、スキタイの一家に生まれたが、幼少期に奴隷狩りにあい、家族を全員失った。しかし、母が殺されても動じなかったところから、才覚を見込まれた彼は都市の名家に拾われ、家族として迎えられる。そこで息子として成長し、多くの書物を読んだ。知識は大人顔負け、おまけに弁も立つ。体育の成績も悪くないし、格闘も強い。まさにギリシア人の理想だった。しかし、そんな日々も長くは続かない。今度は、義父の腹心が義父を暗殺する。正式な養子ではない彼は、再び奴隷に戻る。人生で2回も親を殺される人間。そんな人間はほとんどいない。彼は、そんな環境で生き延びてきたのだ。
しかし、他の人から見て辛い環境であっても、彼はくさらなかった。かなりのプラス思考なのである。再び奴隷として売られてすぐ、彼は漂流して何も持たずに見知らぬ土地に流されるのだが、そこで彼は、自身の持つ書物の知識を活かして住民に溶け込む。ない事を嘆くのではなく、あるものでやり切る。そういう考え方をすることが、生きて行く上で重要になってくるのではないか。

この中で、彼がいう言葉で、とても印象的なものがある。「書物から得た知識の多くが ほったらかしにしておけばいつまでも"他人"なのだが 第三者にわかりやすく紹介してみせる事で 初めて"身内"になっていく」というものだ。書物を読むだけでは、その中にある言葉は、近づいてきてくれないのである。他者にわかりやすく説明しようとしてかみくだく、その過程で初めて理解ができ、その言葉が近づいてくるのだ。
彼の生き方で一貫しているのは、あるものを有効活用して勝負する、ということである。できるだけ準備をしてから行動したい、という人も多くいると思うが、あるものでまずやってみる。そして、それがうまくいくように、頭を使う。この中に、野生と知性を感じるのだ。それでうまくいかなかったら、その時に改善策を考える。やってみなければわからない改善点なんて、たくさんあるのだ。だから、まずはあるもので間に合わせてみよう。本書は、そんなことを思わせてくれる。

古代ギリシアがどんな時代だったのか、簡単に知りたい人や、冒険譚が好きな人、風変わりな生き方を体験したい人には、ぜひおすすめしたい漫画である。