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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】真実は美徳だと買いかぶられている。『流れよわが涙、と警官は言った』

「今までに書いたものの中で最高だし、どうしてこんなものが書けたのか、自分でも見当がつかない」
ディック本人がそう語る本作は、ディック後期の傑作とされている。

三千万人もの視聴者を誇るマルチタレントのジェイスン・タヴァナーは、或る事件で瀕死の状態となるが、目が覚めた時には見知らぬ場末の安ホテルに居た。
昨夜まで超人気タレントだったのに、その世界では誰もタヴァナーを知らない。
IDファイルも、出生記録すら無い、この世に存在しない男になってしまったのだった。
一体、彼はどうなってしまったのか。元の世界を取り戻せるのか。
偽造IDを作ることを考えたタヴァナーは、街へと赴く。そこから様々な人々と出会っていき、やがて、フェリックス・バックマン警察本部長と邂逅するのであった。

巻末の解説によれば、執筆当時の1970年にディックは4人目の妻と子供に逃げられた人生最悪の時だったということだ。その結果、自伝的要素を排除できずに、自らが望んだ訳ではないにしろ自伝的な内容になってしまったらしい。
そして、速書きで知られるディックにしては稀なことに、幾度も推敲を重ね、本書が発表されたのは1974年となっている。
なかなか独創的というか抽象的な作品で、ディック作品なのでSF小説ではあるのだが、全体的にサスペンス色に包まれており、SF的な設定や社会的な背景は存在するものの、それらについて殆ど説明も無く、内容的には人間感や愛について登場人物たちが語る部分が印象に残る、文学的要素の強い一作である。

流れよわが涙、と警官は言った
作者: フィリップ・K・ディック
発売日:1989年2月15日
メディア:文庫本