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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】教科の枠を越えた参考書?! 『ケミストリー世界史』

世界史に触れるのははじめは学校の教科として習う、という方が殆どではないだろうか。暗記やテスト、そんなイメージが、なかなか歴史にとっつきづらい原因ともなっているだろう。しかし実は、いま世の中に転がっている様々な事象は世界史、人類史から来ているのだ、ということを改めて意識し、面白く読める本になっている。
というのも著者は通常、予備校の化学の講師。化学と歴史をからめ、ストーリーとして『そもそも〜』で示されると、かなり好奇心が満たされ俄然内容が面白く入ってくる。

例えば鉄と人間の付き合いが語られる。
かつてビックバンから原子核ができ、核融合で鉄の元素がつくられた。そして地球に衝突した隕石から有機化合物がもたらされ、やがて生命が誕生し光合成をするとともに海中に酸素が放出される。鉄は酸素と結びつき鉄イオンとなり、沈殿して鉄鉱石の鉱床をつくる。

そして鉄鉱石や砂鉄など、鉄の酸化物から酸素原子をはがす工程。つまり鉄イオンに電子をくっつけて鉄に還元する、そのためには高温が必要で、ふいごを使うことにより紀元前2500年くらいから製鉄が始まる。不純物を取り除くため鍛冶、つまり焼いては叩いて表面の不純物を取り除く工程が出来上がった。
製鉄技術のあったヒッタイト族から鉄器を入手したアッシリアバビロニアを征服する(紀元前729)など、鉄器は強力な武器となる。
金属のイオン化傾向(有名な、貸そうかな、まああてにするなひどすぎる借金、の語呂合わせだ)の小さい銅などは簡単に電子とイオンが結びつき、低温で還元できるので早くから青銅として広まったのに対し、イオン化傾向の大きい鉄やアルミを還元する技術は歴史が新しくなってくる。自然界には酸化した状態である酸化鉄からいかに酸素をとりだし還元させ、純粋な鉄を得て、それを道具や武器に使った民族が世の中を制覇していったかという説明は、論理的思考としても面白く頭にはいる。

こんな感じで[ガラス]も、[火薬]も、[織物]も、その素材の化学的成り立ちから世界史概略まで繋げて読める。つまり歴史や化学、時には哲学者の名前や文学など、教科の枠を敢えた参考書といったら大袈裟か。

パラパラめくるのに最適。たまには空き時間はスマホゲームでなく、こんな知識教養もいかが。

著者  大宮 理
発行日 2022年2月15日
発行所 ㈱PHP研究所