ここ数年をかけてじわじわと注目を集めつつある縄文文化。科学的な分析法の進化もあいまって、新しいアプローチによる研究成果が出されている。そうした中、素人玄人問わず議論を巻き起こしたのが本書。歴史の教科書に載る定説に根本的な問いを投げかけ、「土偶は植物をかたどった精霊像である」という説を提唱する。
学者が発見したときの場面や心情が読み取れるストーリー仕立てとなっており、助手の池上くんに毒見をさせるなどおちゃめな話も含め、お堅い専門書という感じもなく、一周回って古風な学者の雰囲気を感じられる点がおもしろい。江戸時代の古物愛好コレクターとしての好古家の延長、その造形に興味を抱き愛した人々と、百年以上の年月を経てシンクロしているようにも思えた。
土偶と言えば繁栄を祈って女性や妊婦をかたどったものというのが定説だ。これに対して根本的な問いを投げかける。本当にそう見えるのか?学んだときに誰もが抱きそうな疑問から本書ははじまる。内容は各時代各地域の土偶と名産品を検討していくというもので、その是非は抜いて感覚的に読みやすい。
本書でも節々に恨みごとが見て取れるが、根本にメスを入れる新説が非難を浴びるのは、人間社会である以上、現代も変わりないということだろうか。しかし歴史は繰り返すといっても単純な流転を繰り返すわけではないだろう。何らかの新しい兆しを含むはずだ。この変化に胸を躍らせるのは私だけだろうか。
前提知識なく読める本です。縄文文化や土偶の造形に興味があればぜひ読んでほしい。