HIU公式書評Blog

HIU公式書評ブログ

堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

MENU

【書評】あのとき俺は、生まれて初めて心から願った。生き続けたいと。『装甲騎兵ボトムズ ザ・ラストレッドショルダー』

 

本書の著者である吉川惣司は、アニメ監督、脚本家、演出家、アニメーター、舞台演出家と幅広い才能の持ち主である。
劇場版第一作目にして決定版と名高い、『ルパン三世 ルパンVS複製人間』の監督、脚本、絵コンテ、演出をした人と言えば分かりも早いだろうか。
装甲騎兵ボトムズ』のテレビシリーズは、三人のライター達が二話ずつ交代で脚本を執筆していたのだが、その一人が著者である。
テレビ放送終了から一年余りの1985年8月に、新作としてOVA『ザ・ラストレッドショルダー』が発売されたが、それをノベライズしたのが本書。OVAの脚本を書いた著者がそのまま小説化したという訳だ。
そしてこの小説、かなり出来が良い。
映像では分かり難い、フィアナの心理、パーフェクト・ソルジャーの生理や制御などが描かれている分、OVAを上回る面白さと言えるかもしれない。

内容としては、主人公キリコ・キュービーが、ウドの街を脱出してからクメン王国へ渡るまでの三ヶ月間の空白期間を埋めるものとなっている。
終戦間際に突然バラバラに転属され、それぞれが始末されそうになったレッドショルダー隊の鼻つまみ者四人が集結した。
彼らの目的は、レッドショルダー創始者であるヨラン・ペールゼンへの復讐。
ペールゼンの下には、必ずレッドショルダーの生き残りも集められているに違いない。
四人は、チューンナップしたAT(ロボット)を備え、ペールゼンが隠居しているという高原へと向かった。
その四人のうちの一人はキリコだ。
しかし、キリコの真の目的はまた違っていた。
そこにはきっと彼女が、ウドで別れたフィアナがいるに違いないと思ってのことだった。

番組の監督である高橋良輔によれば、本作の発想の元となったのは、クメン編の始まりとなった第14話「アッセンブルEXー10」でのキリコの台詞だったと言う。
「ここへ来たのは、なにもかも忘れるためだ」
あのキリコがこんなことを言うには、それ相応の出来事があった筈。それは?
そのことがずっと引っ掛かっていたのだが、新作制作に当たって、それではこの問題を解決してみよう、と思ったのだった。
しかし、その台詞を書いた当の吉川氏によれば、なんかカッコいいから言わせてみただけだったと言うのだから、物語とは、ふとしたことから紡がれるものである。いや、なんともはや。
まぁ、そのお陰で出来上がったOVAは評判上々で、その後、『ビッグバトル』、『レッドショルダードキュメント 野望のルーツ』と、やはりシリーズの隙間期間を描く新作OVAの制作が続いたのだから、善しとすべきであろう。
また、テレビシリーズには登場することがなく、本作から現れたペールゼンが、以降制作される作品達に於いて、かなりの重要人物となったことからすれば、本作はボトムズワールドを広げるキーポイントになったと言える。

さて、レッドショルダーの残党との闘いは? ペールゼンへの復讐は?
そして、キリコの身には一体何が起きたというのだろうか。

装甲騎兵ボトムズ ザ・ラストレッドショルダー
作者:吉川惣司
発売日:1988年12月31日
メディア:文庫本