主人公は、北海道の田舎に住む青年の外村。高校時代、体育館のピアノを調律する現場に立ち会ったことがきっかけで、ピアノの調律師を目指すことになる。
ひたすら音と向き合い、壁にぶつかり、悩む新人外村。個性的な先輩からたくさんのアドバイスをもらったり、先輩の作業現場に同行したりして様々な技術や知識を吸収し成長していく。
先輩から、必ずしも響く音に調律することがいいわけではないことを学ぶ。演奏者のことを考え、わざと鈍く調整することもあるらしい。50ccのバイクに乗ってる人にハーレーは乗りこなせない。50ccをできるだけ整備してあげたほうが親切なのだそう。
美しく、善い音とは何なのか。調律という、正解がない森の中をひたすら彷徨い歩いていく。
決して才能や素質があるとは言えないが、根気強く音に向き合う外村。そんな彼から、時間をかけることで見えてくる世界があることを教えられる。彼は最後、正しい道なのか散々迷い何もないと思っていた森の中で、何でもないと思っていた風景の中に、すべてを見つける。早くに見えることよりも、高く大きく見えることのほうが大事なんじゃないか。他人の才能に憧れ、自分の現状に焦っている私は、この言葉にとても勇気づけられた。
美しい、善い、とはもともとは羊から来た漢字である。羊とはピアノを構成している素材。外村が追い求めていたものは、気づいていないだけで、実は最初から近くにあったのだ。
不器用でも時間をかけて仕事に向き合っていこう。明日からまたがんばりたいと思える本だった。