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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】工藤俊作はLAで生きていた。『新・探偵物語』

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小鷹信光オリジナル作品の続編である。
あれから15年ほど経ったロサンジェルス郊外に、S・クドーは居た。自宅兼事務所の借家へ訪れた日系アメリカ人の若い女性が、「わたしを一週間守ってくれませんか」と依頼を持ちかけるところから物語が始まる。探偵小説として常套的とも言える導入部だ。
或る悲劇をきっかけに再びアメリカへ渡ったクドーは、放浪生活の後、LAの郊外におんぼろな一軒家を借りて住み着いていた。LAの私設調査員でありながら、週のうち3日間はサンタモニカにある法律事務所の雇われ調査員をし、そちらの稼ぎで糊口を凌いでいる。そして、他人と深く関わり合うことを避け続け、目的もなく無為な日々をただ過ごしていた。
法律事務所からの委託で、一年前に起きた現金輸送車強奪事件で奪われた百万ドルの行方を探すチームに、欠員を埋める形で加わることとなったクドーはアリゾナへ向かう。そして強奪事件の関与者たち、バウンティハンター、荒くれ者、ラスベガスのカジノオーナー、国税局、新興宗教団体などの様々な連中が絡み合う。そして、冒頭の日系の美女も事件と関わりを持っていた。
そんな奴らとの立ち回りの最中で、クドーは日系美女を依頼人とするボディーガードに徹することを誓う。幾つもの曲折を経て事件の一切が終わった時、筋目を通し切ったクドーは、かつての様な「本分」を取り戻していた。

本作は、殺人事件を調査してどうこうという様なハードボイルドミステリというよりも、冒険小説という趣きの作品となっている。心情描写は殆ど無いので、それぞれがどういった行動を起こしていくのか展開が読めない中、数多くの登場人物たちが各々の思惑を抱えつつも道中を共に、若しくは追随する展開は、いつ何が起きるのだろうかとなかなかスリリングだ。今回も、著者のしっかりとした筆力で、暴力、銃撃戦、殺人、カーチェイス、そしてささやかなロマンスと、盛り沢山な活劇を楽しめる一冊となっている。
1980年当時、新作の執筆が続くはずだったのだが、工藤探偵をアメリカで活躍をさせたいという作者の構想を編集部が承知しなかった為にお蔵入りしたそうだ。その為に復活までに20年を要したS・クドーである。今や40代半ばとなった探偵には、無気力という以外にもそれなりの変化が伺える辺りも、工藤俊作のファンとしては味わい深く妙味である。

 

新・探偵物語 (幻冬舎文庫)