本書はSaaS関連の中でもいわゆる「禁書」という位置付けになるだろう。というのも、最近45億円の資金調達で話題のSaaS企業ナレッジワークの代表である麻野耕司氏は、SaaS企業を成功に導く秘伝の極意が世間に知れ渡ることを恐れ、この書物の日本中の在庫を買い漁ったという。
そんな禁断のノウハウが詰まった本書の著者はマーク・ベニオフ氏。日本でもすっかり浸透したCRM企業、Salesforce社の創業者である。彼が同社を立ち上げ、世界一のSaaS企業になるまでに体験し、学んだ一連の出来事を追体験できる内容は圧巻だ。
同社の創業は1999年。当時のソフトウェア業界は高額な導入費用と、使い勝手の悪さがユーザーを苦しめていた。そんな中、少額の月額課金制と、ユーザーファースト、またユニークなマーケティング戦略などを武器に、同社は熱狂的なユーザーを獲得し、ユーザーネットワークを広げることで、ソフトウェア業界を席巻していったという。
起業時のストーリーはもちろんのこと、営業、マーケ、テクノロジー、グローバル化、財務、リーダーシップなど、あらゆる側面から同社の成長物語を知ることができる本書。また、マーク・ベニオフ氏のライフワークとも言える社会貢献活動や、かの有名な1-1-1モデルにまで言及があるのは嬉しい。
今では当たり前、いや、生き馬の目を抜くテック業界においては、むしろ古臭く感じることもあるSaaSビジネスだが、改めて進化の軌跡を辿るのは興味深い。今の時代でも通用するSaaS事業成功の要諦を抑えた、まさに禁書の呼び声に相応しい一冊となっている。