白い巨鯨「モビー・ディック」を追う「ピークォド号」の物語。乗組員である主人公「イシュメール」の手記という形式で描かれているが、彼自身は殆ど登場せず、事実上船長「エイハブ」の復讐劇と言える。途中鯨や船についての蘊蓄が入るなどして話が脱線するため、ストーリーがゆっくり進む、という所も特徴的な作品となっている。
本書を読んでみると当時のアメリカのクジラ観が見てとれる。当時は鯨油確保のため、まさに命懸けで捕鯨を行っていたようだ。
それが、現在は石油が普及し捕鯨の必要がなくなった。この一世紀程の間で、アメリカの捕鯨に対する感覚は大きく変わり、現在は捕鯨やイルカ漁に対する国際的な観点は非常にシビアになっている。
時代によって、また地域によってその価値観は変わってくる。捕鯨やイルカ漁の問題に関しては各々の価値観がぶつかっているようにも見えるが、その価値観を理解するには、歴史的・文化的背景を知っておく必要があると思う。
本書は1851年にアメリカで発表されている。アメリカのクジラ観の変遷を抑えておくためには良い教材となるだろう。