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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】風の音が聞こえる。おれはこの広い世界にただひとりなのだ。『石ノ森章太郎デジタル大全 仮面ライダー』

『シン・仮面ライダー』を観た。公開2日目に観た。『シン・ウルトラマン』を最初は観るかどうか決めていなかったら、なんだか評判が割と良さげだったので、余計なネタバレが氾濫する前に慌てて観たのだったが、それと同じ理由だ。
『シン・ウルトラマン』は結構楽しめたので、今回は迷わず観に行った『シン・仮面ライダー』だったが、こちらはなんとも微妙であった。モヤモヤ感が半端ない。
上滑りがスゴいこの映画をどう捉えたら良いのだろうか? と、色々考えた結果、結局オレは庵野秀明の作風が合わないのだと知れた。
しかし、良い仕事をしている部分もある。まず、仮面ライダー1号のビジュアルがめちゃくちゃカッコいい。テレビドラマ版の一番最初の黒い1号に思いっきり寄せているのが涙モノだ。1号を眺めているだけで、他のダメなところも許してしまいそうになる程だ。
それと、一見テレビドラマ版のリメイクと思わせておいて、その実かなり石ノ森章太郎の原作ネタや雰囲気に依っているところも結構面白い。
しかしまぁ、妙なアイテムがバンバン出てきたり、キラキラもしていないので、昨今の平成、令和ライダーしか知らない層からすると違和感があるかもしれないと思いつつ、原作を知る身には、「なるほど」感はそこそこあるのである。
そんな訳で、『シン・仮面ライダー』公開記念で、原作漫画のご紹介である。

作風は、まぁ暗い。
当時の世相もあるし、そもそも石ノ森章太郎作品が悲劇志向なので、当然と言えば当然だ。
そして、石ノ森ヒーローの特徴として挙げられるのが、普通の人間ではなくなってしまった我が身を呪うといった孤独さの表れである。
「風の音が聞こえる。おれはこの広い世界にただひとりなのだ」
テレビドラマ版の熱いキャラとは異なり、漫画版では生体科学者、且つ運動神経も優れている仮面ライダー1号こと本郷猛は冷静沈着であり、思慮深い。そして自らの使命を真摯に受け止め、ショッカーを倒すことにすべてを捧げる。改造手術の傷痕を仮面に隠して。
「おれは人間であって人間でない。しかもおれの同類と呼べる怪物達は、すべて敵になる運命になっている! おれはこの広い世界にただひとりなのだ! だが・・・・ただひとりだからこそ、おれは戦わねばならない! 戦い続けなければいけない! 世界を支配しようとしているショッカーに立ち向かえるのは、おれひとりだけなのだから!」

そこに思わぬ仲間が現れる。仮面ライダー2号こと一文字隼人である。
打倒ライダーの指令を受けて襲ってきたショッカーライダー12名達に、本郷はなぶり殺しにされる。その一味のひとりであったが、洗脳が解けた一文字は本郷の遺体を前にして誓うのだ。
「これからおれが本郷猛になる。彼の遺志をついで、おれが大自然の使者、仮面ライダーになる!」
そんな一文字は、頭脳だけは辛うじて保存され生き延びた本郷と脳波で繋がり、肉体をも共有することになる。
「よし! いくぞ猛。これからは、おれたちはもうひとりぼっちじゃない! いつもふたりだ。ふたりでショッカーと戦おう・・・・・!」
原作漫画の物語中盤でのこのシチュエーション。これが映画でも活かされることになる。

また、『シン・仮面ライダー』に於けるショッカーは、単純に”世界制覇を企む悪の秘密結社”ではないが、”人間の心から私利私欲や無益な闘争心をなくし、秩序正しい平和で穏やかな世界をつくる”という思想を基にする原作からすると、『シン』版ショッカーはそれ程トンチンカンでもないのでは? と思ったりもする。
もっとも、原作に於いて一文字はそんなショッカーの思想を一蹴するのだ。
「混乱した社会でも、人間のロボット化による平和と秩序よりもましだ」
そう、仮面ライダーは、人間の自由の為にショッカーと戦うのだ。

石ノ森章太郎デジタル大全 仮面ライダー
作者: 石ノ森章太郎
発売日:2013年9月1日
メディア:Kindle