"自分の力の4分の3位程の力で、作品なり仕事なりを完成させる位が、丁度良いものが出来上がる。全力量を持ち、精魂を傾けて仕上げたものは、なんとも重苦しい印象があり、緊張を強いるものだからだ。(中略)しかし、4分の3程度の力で仕上げたものは、どこかおおらかな余裕といったものを感じさせる。ゆったりとした作品になる。"
この文章に成る程と感じた方は多いのではないか。ニーチェの『人間的な、あまりに人間的な』から引用した超訳である。
ニーチェ、ドイツの19世紀の哲学者である。名前だけは知っているといったニーチェ初心者にもおすすめのこの本。当時のキリスト教を始めとする権威に背を向けた思想史上の位置に思いを馳せるのも、古今東西老若男女に通じる人の真理の普遍性に唸るのも、はたまた哲学そのものの恰好な入門編として楽しむのもよいだろう。
評者もニーチェ入門編として味わったが、どこを切り取ってもはっとする発見に満ちていて、かつ奥深い。
超訳と編集の分かりやすさも初心者はかなりの恩恵を受ける。本書ではニーチェの各著書から「生について」「愛について」「友について」など、テーマごとに抜粋・抽出した格言集となっている。そしてニーチェの紹介のあとに必ず元の出典も記載されている。このため当然時代や対象・テーマの違う著書の数々を読み比べるインデックスとなっているのも面白い。
例えば著書『人間的な、あまりに人間的な』を出典とする格言を、冒頭の言葉の他少し引用する。
"共に苦しむのではない、共に喜ぶのだ。そうすれば友人が作れる。しかし、嫉妬と自惚れは友人を無くしてしまうからご注意を"
"女が男たちからモテたいなら、姿がうっすらとしか見えない幽霊のような神秘的な存在でいればいい。(中略)この方法は多くの人を魅了するのにもにも使える。勿論俳優は、商売柄、幽霊のような存在だから魅力的に映っているのだし、独裁者やエセ宗教の教祖は、この方法を最も悪どく、しかし効果的に使っている。"
『人間的な〜』は、既成の宗教や芸術などの権威への批判として名高いが、現在にも通じる痛烈な人間の弱さを浮き彫りにしているように感じられる。
数々のオンライン書店でも読み放題・聴き放題プログラムに組み込まれている本書。たまには哲学に目を向けてみてはいかがだろうか。
著者 フリードリヒ・ニーチェ
編訳 白取春彦
発行所 ディスカバー・トゥエンティワン
発行日 2010年1月12日