ベーシックインカムとは、全国民が最低限の経済的給付が資力調査なしに受けられる制度のことである。20年ほど前は倫理観からユートピア主義だと批判されてきたこの概念は、全世界的な運動になりつつある。
無条件で給付が受けられると言ったらどう思うだろうか?労働者が減り財源確保のための税収入が減少し成立しないと思うだろうか?
労働者人口が激減することは予測されていない。ヒトを生物学的に捉え自己実現を目指す生き物出てある限り、労働を継続する割合は常に一定数いるのである。
最低限の生活費が支給されると、自己実現のために躊躇なくチャレンジすることのできる側面もある。また、障害などによって収入を得ることが困難な場合も個に経済的保証がなされることによって、就労をしなければならない状況が回避されスティグマを感じることがなくなる。
本来ならば、すべての個人は潜在能力を持ちそれを高めるチャンスがあるはずである。それが経済的要因によって阻害されていたら社会的評価は形成されないのである。
残念ながらベーシックインカムは経済的、政治的側面から、国レベルでは施行されていないのが事実である。自分らしさという福祉を実現することが社会的生物としてのヒトの目的であると仮定すると、個が持つ能力を最大限に活用できる社会への変容を期待したい。
本著は少しアカデミックな解説も多いが、総論としてはうまくまとまっている。ベーシックインカムの理解のためにぜひ手に取って欲しい1冊である。