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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】なるほど・・・キマったな。俺たちゃボーダーか!『迷走王 ボーダー』

都内に建つボロアパート月光荘。そこに住むのは三人。
久保田という二十代後半とおぼしき若い男、東大目指して浪人生活二年の木村、もう一人は、三千円という格安の家賃だが、なんと元共同便所の部屋に住む男。
その男の名は蜂須賀。苗字以外は年齢も素性も不明だ。木村が旅してた頃、中近東からインドに向かってた時に出逢ったが、半年前に帰国したらしく、住所を頼りにやってきて、すっかりなつかれたと言う。
取り敢えず目上らしいということで、木村は蜂須賀のことをセンパイと呼んでいた。

定職に就く気もなくプラプラしている木村と蜂須賀。”社会復帰”などを口にしながらも、結局はその社会に棲む“あちら側”に悪態をつく蜂須賀は、常識やモラル、”普通”という罠に背を向け続ける。
二人の行くところ、様々なドタバタや人々がやってきては去っていく。その場しのぎ、出たとこ勝負の場当たり的な生き方。見栄や外見を取り繕う気持ちが欠落しているシンプルさで、蜂須賀は世間のそれとは異なる自身のルールで生きていくばかりだ。その心意気こそが見どころだ。
浪人生木村も、いつしか行動を共にする様になり、コンビはトリオに昇格。
上手くいきそうになれば、必ずしっぺ返し、若しくは雲散霧消が待っている。正しき男たちの漂う雲の様な日々。

1986年から1989年に週刊漫画アクションで連載された本作は、漫画原作者である狩撫麻礼狩撫麻礼だった頃の代表作と言っても差し支えないのではないか。
狩撫麻礼だった頃”と言うのは、90年代の終わり頃、「狩撫麻礼は死にました」という宣言の下、狩撫麻礼ペンネームの使用を絶ったことによる。それ以降は複数のペンネームを使い分けた。

「無為こそが過激」
「もう少しマシな夢とロマンを探す思いに駆られて、男は一生フラフラ迷走しなきゃならねえんだ」
「貧乏は・・・美徳だ!」
堅苦しい戒律だらけの〈思想〉も〈信仰〉も持ち合わせてねえが、魂は伝達可能だ・・・それだけは信じてる」
「俺の心にはいつだって幻聴のようにレゲエ・ミュージックが鳴ってる・・・・・・」
数々の狩撫節を口にする蜂須賀。
これまでに狩撫麻礼が描いてきた主人公たちも同じ様にしてきた。だが、蜂須賀の場合は言動だけに止まらない。まさかの結婚騒動を発端として、物語は彼の過去に迫る展開を見せる。そこで語られたのは、丸々そのまんまではないのだろうが、狩撫麻礼自身のプロフィールをなぞっているかの様に思えた。
自らの分身を投影するのが作り手とはいえ、ここまで吐露するとは、一体当時の作者の心情はどういったものだったのだろう。
そこまで描いたならば、エンドマークを打ちそうなものだが、蜂須賀は平気な顔をしてまだまだ物語を紡ぐ。
そして、あのロックバンドとの衝撃的な出逢い。一夜限りの奇跡のパフォーマンス。直後の脱力感からの放浪生活。月光荘への帰還。

ボーダーによる数多なる雑多な逸話たちは、単行本にして全十四巻。その全貌は、簡潔には言い表せないことをお許し願いたい。

迷走王 ボーダー
作者: 狩撫麻礼たなか亜希夫
発売日:1986年9月23日
メディア:単行本