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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】すべての歌はラブ・ソングである! そして限りある者のみが愛について歌い、語る資格を持つ。『LIVE! オデッセイ』

 

漫画原作者である狩撫麻礼には、幾つかのテーマが苔の様にこびりついている。
ボクシング、ジャズ、ブルース、レゲエといった音楽、そして遁世。
或る日、行方をくらましていた男が突然帰ってくるというパターンは少なくない。本作もその一つである。
インディーズながら一部の熱狂的なファンにとってはカリスマ的存在であったバンドのボーカリスト“オデッセイ”は、五年前にアメリカへ逃亡してしまった。その彼がやおら日本に戻ってくるところから物語は始まる。
かつてのバンドメンバーが成田空港で迎えた主人公オデッセイは、極端な空腹時からの深酒と飛行機食を他人の残した分まで食い漁り、胃痙攣を起こして憔悴。ボロボロ状態であった。
英雄の帰還?
果たして、またバンドは出来るのか?!
ところが、元メンバーたちは肩透かしを喰らうこととなる。
オデッセイはバンド再結成などする気は無いらしく、彷徨の日々を送る。
なんとか歌わせようと仕組むメンバーたちにオデッセイが語る。
ニューヨークの場末の酒場で聴いた80歳過ぎの黒人ブルースマンの歌に、オデッセイはショックを受けた。自分はニセモノであると歌を封印したのだ、と。
ということで、前半はまったくこの先がどうなるのか分からない様な単発のエピソードが続く。
なかなかにワガママ、強気な自己中心的キャラ全開というオデッセイと、狩撫麻礼独特の様々なモチーフを以て現れる登場人物たちとのあれこれも楽しくはあるが、内なる衝動、「歌いたい」という思いを認め、黒い封印を解きステージに復帰する後半がやはり本作の見どころだ。
バンド再結成のライブは場末のビアガーデンであったが、ここで出会ったのが某レコード会社のディレクターである下村龍雄。この下村のキャラクターがまた強引且つ大胆と来ており、会った途端に会社は辞め、あんた方のプロモーター兼マネージャーになると言い放つ。
クソみてえに安手な青春論や人生観を甘ったるいソプラノで歌うスレッカラシばかりがもうけている音楽業界。
だが、下村は強気だ。
オデッセイと下村。共犯関係の成立。
確信犯的な戦略の数々を経て、オッデセイバンドは急速に音楽シーンを席巻する。
だが、繰り返しを許容しないオデッセイのモラルは、その代償に己自身を疲れ傷つかせるのだった・・・。

オデッセイはその後の狩撫麻礼作品にも現れるワガママ主人公のハシリかもしれない。
前半では、画とセンスにまだ粗さが伺えた谷口ジローの作画であったが、後半はノリを見せつけてくる。
バンドがロック界の頂点に駆け上っていく様は正にup tempo、勢いに溢れている。しかし、その結末は?
それは是非読んでみて、直に味わって欲しい。

LIVE! オデッセイ

 

 


作者: 狩撫麻礼谷口ジロー
発売日:1987年3月28日
メディア:単行本