毎日好きなバイオリンを弾き、楽しいことをしているキリギリスは、生きていけないのか?本作はそんな問いから、寓話『アリとキリギリス』のストーリーを現代風に解釈し、絵本作家のぶみ氏の絵に武田双雲氏の書が散りばめられたとてもユニークな絵本である。発売前より本作が誕生するまでの経緯や制作過程を追っていたため、発売をとても心待ちにしていた。改めて手にしてみると感慨深く、まるでアート作品のように美しく、構成も面白い。
のぶみ氏の絵本はいつも本人の人柄を表すような優しいタッチで描かれ、また、それぞれの特徴を持つキャラクターもとても可愛らしい。武田双雲氏が扮する筆を持ったフンコロガシならぬ雲コロガシも、早く見てみたく楽しみにしていたキャラクターだ。
また、のぶみ氏自身が行う渾身の読み聞かせは、自ら生み出し、また命をかけた大事な作品という気持ちが伝わり、その迫力にいつも感動が巻き起こる。のぶみ氏と武田双雲氏、二人の笑い、そして涙の中から出来上がった作品である。
夢を見て生きるのは、ありえないような幸せなこともたくさんあるが、上手くいかないこと、また突然好きなものを取り上げられ、ふみつぶされ、ボロボロになり、さみしいくらいに誰もいなくなってしまうこともある。しかし、今をあじわい、誰かに頼り、甘え、助けてもらうことにより、自分も誰かに優しくしたい気持ちになる。そんな自分のいいところを知ってくれている人は、いつも目の前にいる。