例えば、僕の手元に百円玉が一枚だけあるとする。百円玉を何に使おうかと考える。するとチョコレートが食べたくなってきた。
そこで色々な考えが浮かんでくる。コンビニよりもあのスーパーの方が安いな。チョコレートを我慢してもっと安いものでお腹を満たすのもいいかも。いや、でもやっぱり大好物のチョコレートがいい。
だけど、手のひらの上のこの百円玉でチョコレートを買って食べたとしたら、百円玉もチョコレートもなくなる。さて、どうしようか。本当は、毎日チョコレートが食べたいし、そうは言ってもスーパーに毎日通うのも何だか面倒だなあ。
そもそも何で自分はこんなことでぐずぐずしているのだろう。なんなら、いっそ今からでもスーパーでチョコレートを買ってこればいいだけの話ではないか!
そこで早速、スーパーに足を運ぶことにした。スーパーに向かって歩いていると、途中にいつもの交差点に差し掛かって、横断歩道を渡ろうとすると、運悪く信号が赤になってしまった。今日はなんか冴えないなあ、と思いながら、後ろを振り向く。
そうだ、信号待ちをしている間に、本屋さんに入って立ち読みでもすることにしよう。そこで後ろのビルの一角の本屋に入っていった。陳列棚の前をうろうろとしていると、不意に目に留まったのは『中学生にもわかる 会社の創り方 拡げ方 売り方』という本。
自分には関係ないなとも思いながらも、本のタイトルが「中学生にもわかる」とあって、僕も中学生だなと思いながら、何気なく本を広げてみた。すると、いつの間にか半分くらい読んでいて、その頃には、何だか手の中の百円玉が今までにない貴重なものに思えてきたのだった……。
近年、この本にも書かれてあるように、総合的な学習の時間などで、「起業家教育」を取り入れる中学・高校が増えているという。これについて、著者は、大きく変化するこれからの時代の中で、自ら進むべき方向を探求するために必要な力を培うために大切な教育だと主張している。
そして、その力を養ううえで「起業家マインド」と「起業家的の能力を有する人材を育成する教育」がこれからの時代で生きる力を身につけるために必要な教育になってくると本書の中で説いている。
この本では、24歳の時に豆腐の移動販売会社「株式会社 豆吉郎」を開業資金10万円で創業して以来、様々な事業を展開してきた著者が、自身の経験を織り交ぜながら、わかりやすく丁寧に、株式会社とはどんなものなのかという解説をはじめ、具体的な事案を提示しながら、起業するにあたってのノウハウを余すところなく伝授してくれている。
実際に起業してみたいと思うものの、何だか難しそうだなと感じているのならば、本書が道筋を見出してくれる。加えて、未だかつて気づかなかった自分の才覚を呼び起こすきっかけとなるかもしれない。
とくに、私自身が面白いなと思ったのは、起業家になったら、まずは月10万円を稼ぐことを目標数値にするというように、具体的な目標設定をすることが肝心だと著者が説いていること。
ここからも、最初は形になりづらくても、試行錯誤を繰り返しながら、確かな経営基盤を作ることの大切さが読み取られ、著者のストイックな経営精神が伝わってくる。多角的に物事を考える力が鍛えられる、それも起業の一つの魅力なのだろう。
日常の様々なことを自分で判断し、決断していく。そして、細部に気を配りながら時にバランスを考慮し、日々自省しながらより良い経営をしていくように努める。
そしていつの間にか、できないとしり込みしていた自分が嘘のように変わっていたことに気づき、いつしか自分が立ち上げた事業が社会の公器となって役立ち、たくさんの目新しいものに囲まれて、様々な人々との関りによって人間が磨かれ、あの時思い切って起業してみようと行動してみてよかった!と心から思える日が来る。
初めは、冒険でもいい。ただ、あなたがこれからの時代を生きていくうえで、これを必ずやり遂げたいのだという意志があるのなら、ぜひ一歩を踏み出してみて欲しい。失敗もあってもいい。そこから学んで今後に活かせばいい。今あなたの内に存在している思いに、この本が寄り添ってくれるだろう。
ところで、冒頭の「僕」はあの後、手の中の百円玉をどうしただろうか。いいことを思いついたに違いない。