HIU公式書評Blog

HIU公式書評ブログ

堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

MENU

【書評】俺の安息の場所は、戦いの中にしかないんだ。『装甲騎兵ボトムズ III サンサ編』

 

「どこだ・・・・・・ここは」
追い求めたフィアナをその手にし、キリコ・キュービーは神聖クメン王国の崩壊時、大気圏脱出用小型機で炎熱の古都から脱出した筈だった。
しかし、漆黒の宇宙に飛び込んだとき、行く手に現れた巨大な光の塊に脱出機ごと二人は取り込まれた。
目を覚ませば、そこは宇宙戦艦の腹の内だった。
どこをどう巡っても、艦内には人の気配はない。キリコとフィアナの二人っきり。
コントロールも効かない。艦はどこへとも知れず二人を乗せて宇宙の闇をただ行く。
「私たちをどこへ連れて行く気なのかしら」
「どこへ行こうとも、俺だけは傍にいる」

だが、その静寂を、戦場の勇ましいマーチと凄惨な映像が突然引き裂いた。
レッドショルダー。
かつて、キリコが所属していたメルキア機甲兵団特殊任務班X-1、人呼んで吸血部隊。右肩を血の色に染めた鉄の騎兵の殺戮の限りが眼の前のスクリーンに映し出されていた。
「誰かが俺に、忘れようとしていた過去を思い出させようとしているんだ。忘れようとしていた過去を・・・・・」
キリコは、次第に精神に異常をきたし始めていた。しかし、フィアナにはどうすることもできない。
そんな最中、突然の警告。
それは、バララント軍からのものであった。二人の乗った戦艦は、バララント軍の勢域に侵入していたのだ。
ギルガメスとバララントの危うい休戦状態。それを覆すことも厭わぬキリコの抵抗。
キリコは出撃し、バララント軍を圧倒する。
それはなんの為に? それは愛する者を守る為に。そして、皮肉なことに、戦いの中に於いてのみキリコは正常を保てていたのだ。
やがて、戦艦はかつてのギルガメス、バララントの最も激しい戦闘宙域であり、休戦後は互いに進軍してはならぬと定めた不可侵宙域へと突入、さらには或る惑星へと二人を導く。

敵はバララント軍だけではなかった。
バララントとの戦闘で受けた負傷に呻く中で、キリコの脳裏にあのもう一人のパーフェクト・ソルジャーの名が、姿が、浮かび上がる。
そのイプシロンもまた、激しい憎悪を胸にキリコ達を急襲する。
その目的は、プロトワン=フィアナの奪回、そして憎むべきキリコの殺害。
追っ手をかわしつつ、ささくれ立つ思いを胸に降り立った、不可侵宙域内に在る赤い惑星。
しかし・・・、
「この惑星の名はサンサ・・・・・。分かっている。この星が俺を歓迎するはずがない」
更なる過去の呪縛がキリコにつきまとうのだった。

古傷の痛みに苛む男、パーフェクト・ソルジャーとして生を受けた女。互いに支え合いながら、宇宙の闇と赤い惑星を彷徨う、このテレビシリーズ29話から39話までを描いた本書は、キリコとフィアナの二人の絆を深めることを軸に、ドラマチックな展開を見せつけ、この作品を二人の純愛の物語と位置づけるに足るのだった。

次回『クエント編』。
キリコは自分の過去に出会えるか。

装甲騎兵ボトムズ III サンサ編
作者:高橋良輔
発売日:2003年6月1日
メディア:文庫本