2013年1月のある夜。夫との関係がうまくいかない著者が、家出をして宿無し生活をしているところから本書は始まる。
「もっと知らない世界を知りたい。広い世界に出て、新しい自分になって、元気になりたい。」
人生に疲れ切っていた著者がそう思ってとった行動が、出会い系サイトに登録してみることだった。なんでやねん!と思わず突っ込みを入れたくなる。だが同時に、自分の直感に従ってこんな行動をとれる著者の勇気に尊敬の念が湧く。
そこで自分にできることを考え、とった行動が、”出会った人にぴったりな本を1冊選んでおすすめする”というものだった。
その活動をすることで、著者は新しい人と偶発的に出会うことの面白さを発見し、人に本をお勧めすることの楽しさ、また、本を介することで見えてくるその人の魅力や本質、そうしたものにどっぷりとはまっていく。元来が引っ込み思案で個人主義が強い著者にとって、それはまさに武者修行と言えるものであった。
そしてまた、著者はそこで現れる自分の新しい一面に驚く。そこで出会った人たちと話をしていると、今の状況に囚われない、明るくて楽しげな自分が久しぶりに立ち現れていた。夫といる時の歯切れの悪い自分より、疲れた顔をして仕事をしている自分より、その活動をしているときの無謀に未知に立ち向かっていく自分の方が好きだ。そんな風に感じるようになる。
評者も、新しい人と会う機会が最近はちょくちょくあるのだが、新しい人と会って話をするのって、刺激的だけどけっこう疲れる。ふわっとした会話だけだと全然おもしろくないし、かと言って深く探り合うと傷ついたり傷つけてしまったりする。人間って難しい。
しかし著者の場合、ただ人に会うだけではなく、「本をおすすめする」という目的があった。だからそこには相手のことをよく理解しようという真剣な動機が生まれていた。
そしてそんな場面で必要とされたのは、否定も肯定もせず、一旦受け入れてみるという行為だった。考えてみると、これって読書と似ているのかもしれない。と考えると、本好きって孤独な人に思われがちだけど、実は人好きなのかもしれない。なんて、本書を読み終えて思ってしまったけど、どうなんだろう。