製造業から商社へ、さらに再び製造業への転換を果たした数少ない企業である鍋清。創業明治10年で140年以上の歴史がある会社ですから、戦争やバブル崩壊などの急激な外部環境の変化や、技術のコモディティ化による経営の圧迫が次々とやってきます。度重なる危機を乗り越えてきた理念と経営戦略がばっちりと書かれています。
タイトルが孤高となっているので、社長のワンマンパワーでなんとかしてきたような印象を受けますが、実際の軌跡はそれとは真逆。言うなれば全員経営を実現させて、1人1人が自分の頭で考えて経営に参画していることがとてもよく伝わってきます。時代の変化を捉え、決して翻弄されることなく決めたことをやり続ける・やり抜く姿は、今の時代でも決して忘れてはいけない経営姿勢だと教えてくれたと思います。
一番興味の惹かれた点は"商社のものづくり"はうまくいかないというジンクス。会社には根底に根付いたマインドがあり、商社には商社の、サービス業にはサービス業の、製造業には製造業の理念が奥底にはあるのでしょう。その軸を少しでも外れた事業は失敗していく。儲かるからと手を広げていった末には、一時的な需要を刈り取ったら後が続かないという焼き畑経営が待っています。興っては立ち消えていく会社では誰も幸せにできません。ビジネスの本質を掴み取っている企業が生き残る、体験を基にした解説がとても分かりやすい。
持続可能な事業と継続的な社会貢献。そして何より、自分たちで決めた市場選択が及ぼす社員のモチベーション。人間は他人に決められたことはやりたくないが、自分で決めたことはやり抜きたいと思うもの。それが徐々に成果が出てきたら楽しくて止まらない。経営理念としては珍しい全員経営が浸透したら、こんなにも素敵な会社になるんだなと再確認させてくれた一冊です。