「私は心の中でクリスマスをたたえ、年中その気持ちを持ち続けていきたい」
チャールズ・ディケンズの言葉である。ついこの間クリスマスが終わってしまい、あの温かな雰囲気が好きな評者は少し寂しい気持ちになっていたのだが、本書を読んでまたクリスマス気分に浸ることができた。
物語の主人公は守銭奴のスクルージ。彼にとっては金がすべてであり、愛情のかけらもない。そんな彼は当然、周りの人間から嫌われていた。そしてクリスマスイブの夜、彼の前に死んだはずのかつてのビジネスパートナー、マーレイが現れる。彼はこれから、スクルージに3人の天使を会わせると言う。
現れた3人の天使はそれぞれスクルージに、
「すぎし日のクリスマス」
「いまのクリスマス」
「きたるべき日のクリスマス」
を見せる。
それらを見たスクルージはようやく自分の本心に気づき、「自分から人を愛そう」と改心するのだった。
つまり、彼が複雑に考えていた人生とは実は単純明快なものだったのだ。
そんな本作のキーポイントとなるのが、幽霊のマーレイがつけている鎖である。
これは我々誰しもが、人生において気付かないうちに身につけているしがらみを表しているのだろう。自分の囚われている鎖は自業自得のものなのだ。
そして本作の主人公スクルージは「欲望の鎖」をつけていた。果たして評者のつけている鎖は何なのだろうか。少し考えてみたくなった。
本書はHIUの有志が集って作り上げた作品であり、この一冊自体に、とても愛情が感じられる。背景の色合いや、登場するキャラクターの表情にとても温かみがある。評者のこれからのクリスマスに優しく寄り添ってくれそうだ。愛情を忘れそうになったときに、読み返したい一冊である。