“デリーからロンドンまで乗り合いのバスで行く”主人公"私"の旅、全5巻の2巻目。香港・マカオに別れを告げ、デリーへの経由地であるバンコクへ飛んだものの、なぜか主人公"私"の中には響いてこない。香港で感じた熱気を期待しながら、バンコクを離れ鉄道でマレー半島を南下。途中、マレーシアのペナンでは娼婦の館に滞在し、娼婦やヒモ男たちの屈託のない陽気さに巻き込まれ、終着地シンガポールを目指す中で変わっていく”私”の心に読み手はグイっと引き込まれる。
本書を含めた『深夜特急』シリーズは"私"という一人称で語られており、日本人としてのメンタリティと着飾らない26歳の"私"の感情が素直に表現されている。
2巻を読むことで、"私"がいかに香港が魅力的で刺激のある街であったかが良く理解できる。
私は香港よりもバンコクやペナン、シンガポールの方が断然魅力的に決まってるでしょ!と思いながら読んでいくうちに、"私"と読み手である私が一体となり、「どこに香港以上に刺激的で好奇心を掻き立てる街はあるのか?」とまるで自分自身が”私”になり旅をしている気持ちになってくるのが面白い。
本巻に出てくるペナンの同楽旅社のような奇妙な雰囲気の怪しげな旅社や鈍行列車で出会ったチュムボーンへ帰省する若者たちとの出会いは残念ながら現在では経験できないだろう。
最早経験できない旅が体験できるこの一冊は旅に出たことがない人はもちろんであるが、東南アジアを一度でも旅行した人は更に"私"に同化できる一冊である。