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【書評】シェイクスピアが現代に突き付けたテーゼ『オセロー』

 

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 シェイクスピア四大悲劇の一つ。原典はチンティオという作家の作品「百話集」の中の一話と言われている。ただ、この「百話集」は現実的な不都合を描いた教訓話で、人間心理の根源に迫るシェイクスピアの悲劇とはだいぶトーンが異なっていたようだ。
 原典からさらに深い悲劇を創造するシェイクスピア。その芸術性を感じられるのが、このオセローである。

 主人公のオセローはムーア人で黒い肌の持ち主。ヨーロッパ文学の主人公に黒い肌の持ち主がすえられる事自体が珍しいのだが、そのパーソナリティが高潔であるという点がユニークである。
 オセローの心は高潔である。だが、白人が支配する社会にあって彼の肌は黒いのだ。これが、「オセロー」のモチーフとも言える。

 美しく家柄のよいデズデモーナが、なぜ肌の黒いムーア人のオセローを夫としたのか。
 デズデモーナは高潔で、勇敢で、正直なオセローの人柄を愛した。その人柄はオセローの個性が培ったものであり、肌の黒さもまた彼の個性である。そのようにオセローが捉えていれば悲劇はおこらなかったはずである。だが、オセローは肌の黒さが個性ではなく葛藤と捉えた。故に悲劇は起きてしまったのだ。
 登場人物の心の葛藤。これこそシェイクスピア悲劇の真骨頂なのである。

 「オセロー」は単純明快な筋立てで、シェイクスピアの作品としては珍しい。また、シェイクスピアが創造する深い悲劇も味わえる。そう言った意味でシェイクスピアを読み慣れている人、読み慣れていない人のどちらにもお勧め出来るものである。

 未だ命題となっている「肌の色」というテーマで今後はどのような演出がなされていくのだろうか。

 

オセロー(新潮文庫)

オセロー(新潮文庫)