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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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【書評】喪失感にただただ涙する、遠い南の島のラブストーリー『フィリピン・フール』

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著者である内山氏のエッセイと小説を融合した、日本とフィリピンを結ぶ壮大なラブストーリー。
内山氏の著作に共通して言えることだが、何よりもまず文章が美しい。内山氏の彼女であるアリスの美貌、フィリピンの風土、特徴的なキャラクターの数々は、読んでいてリアルに目に浮かぶところが素晴らしい。
特にアリスは若くそれ故快活にも関わらず艶やかがある最高の女性として描かれ、著者との出会いから深く愛し合うまでの導入部分では、男性諸氏であれば誰もが羨み嫉妬するか、感情移入し物語にのめり込んでしまうことであろう。読み進めるうちに、何としてでもアリスをひと目で良いから見たい、会いたいという感情に陥ってしまう。

男性諸氏と上記で書いたのは、他の小説と違い、著者のエッセイのテイストが強く、著者の目線で書かれ、アリスの感情が描かれていないからである。女性の視点で読むと、女心がわからないダメな男としてもどかしい気持ちになるかもしれない。
そこが順風満帆で誰もが羨む二人の恋愛が、次第にきしみ始めていく原因でもある。
相性が抜群の彼女、何もかも全てがうまくいき楽しい日々を過ごしていたら、その後二人はどうするであろうか。同じ立場であれば殆どの人が、次のフェーズへ進もうと考えることであろう。なんといっても最強の二人なのだから。

内山氏は二人にとって何がベストなのか合理的に思考する。内山氏は真剣に考え、これ以上無いプランを提示し実行するにもかからわず、なぜかアリスの反応がすこぶる悪い。その理由を内山氏はアリスの真意を測りかねずにいるうちに、だんだんとアリスが無能なのではと気づき始めていく。ほんの少しのコミュニケーションのズレが徐々に大きくなっていき、そして・・・

この本では内山氏のむき出しの感情がそのまま描写されている。特に中盤から後半にかけての悩み苦しむ内山氏の辛さは、こちらの胃まで痛くなってくる。
永遠に関係が良好であることを目指す目的は、二人にとって同じはずである。合理的かつ論理的に物事を進めようとした内山氏、そして感情で物事を考えるアリス。
一体どこで道を誤ってしまったのだろうか、またどこの時点だったら引き返す事ができたのだろうか。

実はこのケーススタディは身近で多く起こっているのではないか。どんなに相性が最高の二人でも次のフェーズへ進むことは必ずしも正しい選択ではない場合がある。そのフェーズに留まることも、それまた正しい道の時もあるのだということなのかもしれない。読者の方が内山氏なら、またアリスならどうしていたであろうか。

 

フィリピン・フール (ハルキ文庫)

フィリピン・フール (ハルキ文庫)