佐田と一緒に仕事をしてみたい、思わずそんな考えが頭をよぎってしまう。しかし“地域再生にスーパーマンはいない”というのが、本書のメッセージの一つだ。
本書は主人公の瀬戸が家業の整理をするために東京から定期的に地元に戻るが、結果的には本業のサラリーマンを辞め、地域再生に力を入れる物語だ。彼や佐田をはじめとする彼の仲間が事業を進めていく物語と並行し、地域再生事業の現実についての解説がされる。
瀬戸たちの事業は物語の序盤である程度軌道に乗っていく、これは同様のテーマを持つ類似の小説とは異なる展開かもしれない。瀬戸たちの困難はむしろ事業が軌道に乗った後にやってくる。
“地方で持続的な事業に取り組む”ということがいかに魅力的でチャレンジングで、難しいことを本書は教えてくれる。難しさの1つは合理性の欠如だ。変わらない場所に変化を持ち込むということは、歓迎しない感情や思惑が集まってくる。慣習の押し付け、嘲笑、妬み、欲望、権威、、、。ここには買いたい人がいるから売れるという需給の原則以外の力が発生する。主人公の瀬戸や瀬戸と共にする仲間もこれらの壁に何度もぶつかるが、その度に仲間と共に乗り越えていく。地方で事業を起こす事は、その瞬間よりも継続の中で困難は生まれることは本書で学んだが、同時に継続の中で本当の仲間が増えることも学んだ。
地方か都市部かそのような枠組みを超え、何かをやりたいという想いが燻っている人はぜひ本書を手に取ってほしい。きっと背中を押してくれるはずだ。私も本書に登場する佐田の言葉には何度も胸がアツくなった。スーパーマンは現れないとはいえ、それくらいの恩恵は受けてもいいだろう。“やるべきときに、やるべきやつが、自分でやると決めんと進まん”物語の中で佐田が瀬戸に言った言葉は、まるで私へ向けた言葉のように思えた。