長年、紛争が続くラザン独立国とアラルスタン共和国の国境、ブラッドライン。「世界的なスーパースター、歌手のM がこのブラッドラインで、射殺された」という報道が一瞬にして世界中へ駆け巡り、ストーリーが展開されていく。
なぜ、スーパースターMが殺されたのか?
なぜ、Mはブラッドラインにいたのか?
誰が、Mを殺したのか?
Mは、世界平和を常に願い、多くの活動をしていただけに、世界中の人々のMの死に対する疑問が尽きない。しかしこの衝撃に影響され、人々が各国で自分の人生を見つめ直していく様子が、各章ごとに描かれている。
・現場となった「ラザン、アラルスタン」
・Mの出身国で、紛争に加わった「アメリカ」
・武器を作っていた「ロシア」
・Mの元妻のいる「ニューカレドニア」
・一見、事件には無関係のような「日本」
これらの国々で事件のその瞬間、またその後、起こった出来事や関係性、Mの死による衝撃とそれに伴う人々の変化、さらに、事件現場とは遠く離れた国との、裏での知られざるつながりがとても興味深い。
また一番の見どころは、平和を願っていたMからの、スーパースターという立場を使ってのメッセージだ。Mは、単に紛争に巻き込まれたのか、または、何かの陰謀なのか。最終章での思わぬ展開は、人々に新たな気づきを与える。
本書は社会派の小説であり、現実にも起こっている、または起こりうる戦争や人種差別等、世界での社会的問題を、小説というかたちで取りあげている。
フィクションではあるが、本書を通し、当事者ではなくても、誰しもが無関係ではない、世界で日々起こる現実での社会問題について、改めて考えさせられた一冊である。
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