世之介は、長崎から上京したての大学生だ。好色一代男から名付けられた、その奇特な名前を持つ彼は、いつも、ちょっとだけ損した気分になることが多い。上京した日に広場で踊っていたアイドルが、長崎にいたころ憧れていた人だと知らず、ちらっとだけ見て去ってしまったりするのだ。ちょっと小物である。隙だらけで、押しが弱い。だから、全然興味がなかったサンバサークルに入ってしまう。そのくせ、仲良くなった相手には図々しい。平気で何日も泊まったりするのだ。それでも、憎めない。その隙だらけなところが、ちょっと可愛くてついつい許してしまうのだ。
そんなちょっと小物な世之介だが、変なところで器は大きい。仲良くなった相手が窮地に陥れば、自分に可能な限り全力で助けようとするし、相手の性的嗜好が特殊だったとしても、自分に被害がないなら全然構わないと一笑に付す。友の、一世一代の覚悟でしたような告白は、拍子抜けなほどあっさりと受け入れるのだ。こんな性格だから、ついついみんな世之介のことを好きになってしまう。
この物語は、世之介の大学時代と、それを懐古する旧友の現在が並行して綴られる。大学時代も、ちょっと笑えるくらいのんきだけど、現在、世之介を思い出す人はみんな笑うのだ。関わった人みんなが思い出したとき、笑ってくれる。そんな人生を歩んでいきたいものだ。
なお、この作品は映画にもなっている。これも面白いので、本を読むのが面倒な人にもぜひ見て欲しい。私は、大学生のうちにこの本を読んで、こんな生活を送りたい、と憧れた。(今も憧れている。)今大学生の人にぜひ読んでもらいたいが、社会人の人も、読んだら元気をもらえると思う。不思議な優しさと、あたたかい笑いを感じて、いつもより少しだけいい気分で活動できるんじゃないか、と思う。