求められたい。壊れるくらいに。こんなにも誰かに対して恋をしたことがある人はいるのだろうか。
高校生の時、部活の顧問に憧れた人は、多くはないかもしれないが、珍しくもないだろう。主人公の泉もそんな一人だった。しかし、泉のその想いは、あまりに大きなものだった。高校を卒業し、大学に入っても、消えることはなかった想い。それは、彼からの電話によって、再び意識させられることになる。後輩の部活動への協力を求める電話。そんな他愛もない電話から、泉は再び彼を強く意識するようになってしまう。
葉山先生は、優しい。それ以上に、甘く、弱い人間だ。泉への好意を一度は隠そうとするが、結局、再会した泉に対して、自分の気持ちを抑えることができなくなってしまう。自分を求めてくる泉の狂気的なほどの愛情にほだされ、自制ができなくなってしまうのだ。拒絶の態度を示すことはできても、貫徹することはできないのだ。ずるずると甘えを許し、泉の気持ちを膨らませてしまう。
続いてしまった関係を終わらせるのは、泉の方だった。先生への愛が大きくなりすぎていたこと、その先では、自分だけでなく、先生も破滅してしまうことがわかっていたのだ。自分のことはめちゃくちゃに壊してほしい。それでも、先生には壊れて欲しくない。健気では済まないほどの献身。そして、関係が終わっても、想いは過去にならない。いつまでも苦しい幸福を抱えながら生きていくことになるのである。
私は、読み終わってから、全身から力が抜けるような感覚を味わうことになった。恋をするエネルギーとその醜い必死さ、その必死さに感じる純真な美しさ。そして失われた時の虚無感と無力感、絶望感。それを思い出した時の痺れるような感覚と、胸の痛み、流れそうになる涙。こんなにも心を激しく揺さぶられる小説はほとんどない。ぜひ読んでほしい。