HIU公式書評Blog

HIU公式書評ブログ

堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

MENU

【書評】自分の心が満たされないと、人を幸せにできない『わたしも家族も笑顔にする  幸せキッチン』

 

22年間で7,000人以上に料理を教えてきた著者は、かつては料理が苦手で、子育てをしながらの料理の時間はとても憂鬱だったそうだ。なぜなら、家族の健康のためと頑張れば頑張るほど義務感を感じ、自分自身が味わい楽しむことができなかったという。

そんな時、毎日忙しく疲弊し笑顔のない母の表情を目にした著者の娘の一言がダンドリクッキング開発のきっかけになったという。栄養バランスがとれた献立や買い物、調理から冷蔵庫の使い方など料理全般に関わる動きを効率化し、手際良く楽しく早く料理ができる方法を生み出した。それがダンドリクッキングだ。

本書には、夕方疲れた時にたった10分でできる疲労回復メニューや、週末余った材料でできる簡単メニューなど、著者おすすめのテーマ別、簡単に作れる10の時短レシピと料理の出来上がり写真がカラーで掲載されているため、誰でも簡単に作ることができる。

かつては、時間に余裕がないと心にゆとりが持てずにイライラし、周りの人のことまで考えられなくなってしまったこともあったという。しかし、時短料理を行うことにより、やらなければいけない料理から食べてくれる人の笑顔を思って作り、自然と自分も笑顔になり、周りにも良い影響を与えているそうだ。また、時間の余裕ができたことにより気持ちの余裕もでき、新しいことにチャレンジしたいと思えるようになり、毎日の料理の変化により自分の人生も大きく変化させることができたのだ。

 

 

【書評】読むと広がる日本酒の世界『ゼロから分かる!図解日本酒入門』

 

数十年前に居酒屋で飲んだ日本酒は何か変な匂いがして飲むと気分が悪くなった記憶ばかり。それ以来、日本酒は敬遠するようになったが、最近は美味しいものが増えてきたと感じる。

そしてメニューにただ日本酒と書かれてるのではなく、銘柄で書いている店が多くなってきたし、数十年前に飲んだ日本酒は何だったのかと思うぐらい味わい深く美味しいものが多い。

最近は日本酒を飲む時には店員さんに好みの味を伝えて選んでもらってきた。しかし良く考えてみると米という同じ原料を使いながら個性豊かな日本酒が生まれるのはなぜなのだろうかと疑問に感じていた。
「米の種類が違うのでしょ」「米の削る割合が違うからだろ」、確かにそうなのであると思うが、では具体的に辛口でスッキリした味わいにするためにはどのように醸造するのか、なぜ昔の日本酒は不味かったのか、日々日本酒への疑問が膨らんできた時に出会ったのが本書である。

大吟醸吟醸本醸造って?生酛、山廃、無濾過って?生酒と原酒は何が違うのか?
なぜ昔の日本酒は不味かったの?など気になりながらも調べてこなかった日本酒の疑問に酒食ジャーナリストの筆者が答えてくれる。

会話形式で進めるので、日本酒初心者の方も自然と理解できる内容となっており、美味しい日本酒に出会いたい方は必読の一冊である。

この書評を書いていたら飲みたくなってきた。さぁ今晩はどの日本酒を飲もうか。

著者;山本 洋子
出版社:世界文化社
発売日:2018.3.3

 

 

【書評】俺は特別な男ではない。もっと早く気付くべきだった。『Days 時の満ちる』

 

二度に亘る外タレ興業の不入り。3億5千万円の借金。一匹狼の呼び屋、馬渡真助(まわたり・しんすけ)は、その夜、家財一式を売り払っての夜逃げを図ろうとしていた。
宵闇のなか突然の訪問者。債権者か!?
開け放されたドアに立ったのは、気品すら感じさせる様な令嬢風の美女だった。
「誰だ・・・・・」
「フィアンセを忘れたの?」
虚を突かれた馬渡の問いに女は応える。
女は、昨夜、酩酊した馬渡と結婚を約したと言う。合鍵も渡された。馬渡の素性も今の状況も全て語って貰ったと。
覚えは無かった。女の名前すら。
「君の名前も思い出せないような最低の男とシャレで結婚して一生を棒に振る気か!?」
「棒に振りません」
「君はいつでも好きな時に消えていい」
「消えません。夫婦ですもの」
会ったばかりの女。だが、誰かに似ている・・・・・。
債権者の罠か?
「ま、いいか・・・・・とにかく、もう俺には失うものは何もない・・・・・」
奇異な男女一組の逃避行。港沿いの取り壊し予定の廃倉庫に立ち籠もる生活の始まり。
どこまでもしとやかなで従順な女に、相変わらず何の覚えも無く半信半疑であった馬渡も心を許していく。
「美しい・・・・・。無垢、イノセントだ・・・・。背後に得体の知れぬ何かを感じるが・・・君が嘘をついているとは思えない・・・・・」

やや粗野で、破滅派ギャンブラーで捨て鉢、自らトラブルを招くタイプの馬渡は、やはり債権者に追われた。
それもヤバいタイプの債権者だ。
囚われ、リンチを受ける馬渡。
奴らの矛先は、ホテルで一人馬渡の帰りを待つ女にも向かう。
脱出した馬渡がホテルに着いた時、債権者たちは何者かによって正体を失わされており、女の姿は無かった。
「女は・・・・・あの女は・・・・・」
そして馬渡は、あの女が誰に似ているのかようやく気づいた。ヒッチコックの映画『断崖』のヒロインだった。

狩撫麻礼中村真理子が贈るラブストーリー。本作では、ミステリーの要素が加わっている。
眉目秀麗で怜悧な謎の女は誰なのか。
本当に酔いに紛れてプロポーズを?
違うとすれば、女の目的とは?
ほぼ二人だけで展開される前半に反して、後半は俄かに新たな登場人物たちが現れ、謎のベールが次々に剥がされていき、物語は加速する。
過去・・・疑念・・・復讐・・・時の満ちる前に・・・・・。

Days 時の満ちる
作者: 狩撫麻礼中村真理子
発売日:1985年12月15日
メディア:単行本

 

 

【書評】プレゼントとはプレゼントのことだった!『プレゼント』

 

海外に行った際に、とても良い本だと紹介された本書は、2019年時点で全世界2,800万部を超えるベストセラーとなった『チーズはどこへ消えた?』の著者により書かれたもの。当時はまだ日本で発売されておらず現地で購入したのだが、今となっては、英語だったからなのか内容は疎か読んだのかどうかも全く記憶にない。しかし、ここ最近あちらこちらの書店で本書を目にし、何か今の自分に意味があるのではと思い再び読んでみることにした。

主人公は、仕事のためにかなりの労力と時間を注ぎストレスにまみれていた。だがある時、『プレゼント』のストーリーを聞くと人生は大きく変化した。しかしそれは、その人それぞれの状況により学ぶことが異なる。なぜなら、重要なのはストーリーの内容ではなく、そこから何を読み取り、どう活かすかはその人次第だからだ。『プレゼント』それは、幸せと成功をもたらしてくれるものなのだが、一体何なのか?

ストーリーに登場する少年は、老人から『プレゼント』の話を聞いたが、それが何なのかよくわからなかった。少年は成長するにつれ、どんなことも楽しかった毎日から、もっと友達が欲しい。もっとものが欲しい。大人になればもっと楽しいことがあると思っていたのにと、満ち足りなさに不満が募っていった。そして、少年は大人になり、仕事も恋人との関係も上手くいかず、自分が駄目な人間だと思うようになった。

プレゼントが相変わらず何なのかわからず、老人に聞いても自分にしか見つけられない。すでにそれを理解している老人は、常に穏やかで、若々しい活力があり、誠実で強い絆で結ばれた家族がいて、仕事もでき、社会にも貢献していた。また、素晴らしいユーモアセンスと知識でみんなを楽しませ、尊敬もされていた。老人は、今まで出会った中で最も幸福で成功した人。

自分の利益以上に他の人たちが幸せになり、成功するのを手助けすることを生きがいとし、人々は彼と一緒にいると気分が良く元気になる。彼は誰よりもよく人の話を聞き、誰よりも早く問題を予測し解決策を見つけた。誰もが老人のようになりたいと思うが、多くの人は、主人公のように日々のことに翻弄され、常に心は満たされない日々を送っている。本書では『プレゼント』の謎が解き明かされ、老人のように自分を高めていくことができるのだ。

 

 

【書評】不愉快な隣人とどう付き合うかを歴史から学ぼう!『不寛容論 アメリカが生んだ「共存」の哲学』

 

日本人には不思議な行動習慣があります。ハロウィン・クリスマス・葬式・初詣をほとんど人が違和感なく受入・参加しています。このような行動から見てインバウンドに期待する日本人には異文化を受け入れる寛容さがあると思われますが、残念ながら国際化や外国人、地元民以外に対して、つまり自分自身に降りかかる場合には、どの国よりも保守的で寛容とは言えないデータもあります。

このような前提に立つと、これからの日本に必要なテーマの1つは「寛容」でないかと思いますが、その「寛容」という言葉も曖昧ですので、過去の歴史を見ながら「寛容」を考えていくという本です。

この本の主人公は移民としてイギリスからアメリカに渡ったロジャー・ウイリアム氏です。彼は啓蒙主義以前のアメリカ先住民とイギリスからの移民との間で行われた活動を通じて、イギリス側の植民地対応という視点ではなく、人として平等に扱うべきだと説き、彼の活動を通じて寛容・不寛容というものを考えていきます。当時としては政教分離の礎ではないか?という先進的な活動です。

彼の活動や人生を通して、ウイリアムズ氏が考えた「寛容」とは人の良心に対しては敬意を払い(今回の場合は改宗を強制しない)、最低限の礼節をもって接すること。と私は理解しました。
 
この本を読んだ感想としては、改めて人として発信側・受取側の両立場でこういった「寛容の精神」を忘れずに生きるべきと感じ、「寛容」という言葉や行動の難しさを感じた本でした。ダイバーシティや寛容さが求められるこれからの時代に向け、是非読んでみてはいかがでしょうか?

著者 :森本あんり
出版社:新潮選書
出版日:2020年12月16日

 

 

【書評】マウスを捨てると年間120時間時短可能??『脱マウス最速仕事術 年間120時間の時短を実現した50のテクニック』

皆さんマウス使ってますか?私は過去会社支給のマウスではなく、自分に合うマウス(相棒)を探し求めて、何度も現物を見たり買い替えました。1万円越えの高額マウスを出張先で失くした時はしばらく落ち込みました・・・

そんなマウスの使用が当たり前となっていた私に、新しい価値観を与えくれたのがこの本です。一言で言うと「マウスには得意作業と得意でない作業がある」という事であり、ファイルを閉じたり保存したりする作業は、ショートカットキーを活用した方が早いが、プレゼン資料の作成はマウスの方が早くなる。、という事です。

従ってマウスを使わない=ショートカットキーを使う事になりますが、Shift、Ctrl、Altキーの本来の意味も解説されており、いままでのショートカットキーは暗記ではなく
ショートカットキーの本質を理解し、覚えることができるようになりました。このようなテクニックが50個紹介されています。

なお著者の森氏は姉妹本の『アウトルック最速仕事術』という本も出しており、こちらも同じようにマウスよりショートカットキーによる時短を提案しております。マウス・アウトルックともに普段の仕事では使用頻度が高い為、使用時間を減らす=作業時間が大幅に減るだけでなく、机上がスッキリするというメリットもありました。

私も上記2冊の本の内容を試して、マウスを使う時間を7割削減ができました。(個人の仕事内容によります。マウス使用は否定してません)生産性向上が叫ばれる中、気にもとめなかったマウス作業の大きな無駄に注目し、有限である時間を有効活用するために少しでも早く帰れることに気づいた本です。2冊セットで読んでみてください。

著者 :森新
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2020年7月30日発行

 

 

【書評】何から手をつけたらいいのか分からない、といった方へ。『化粧品・健康食品EC・D2C新規参入パーフェクトガイド』

 

経営者は、新たなビジネスの種を探し続けなければ、長期的な繁栄は叶わない。その為には成長性の見込める分野に常にアンテナを張っておかなければならない。
本書は、化粧品と健康食品業界に特化したダイレクトマーケティング支援を行なってきた著者が、新たに化粧品・健康食品のD2C事業を始めたいと考えている他業種事業者に対し、業界参入へのステップを示し、解説をする為に書かれたものだ。
第1章から第6章まで、31項目のトピックス。著者がコンサルタントに就いた際にも同様の順序で見直しを進めると言うので、戸惑うことなく知識を身に付けられるだろう。

私は、特許取得のサプリメントを配合した狂ったお水『サプリメント in ウォーター MCMのめぐみ』という商品のメーカーをして13年目。どっぷりこの業界の者だ。
新規参入者ではないのだが、トレンドを知ること、その為に本書を手にした次第だ。
そういうことなので、事業を始めるに当たって必要なことのくだりはやや冗長にも思えたが、そりゃまぁ仕方がない。現在自分が行なっていることに修正や追加を施すべきものはないか、チェック項目を挙げられていると思えば良いのだ。
例えばだ。
顧客とは、自社の商品を使うことによって幸せになる人のことである。メーカー側は、機能やスペックをアピールすることよりも、商品を買うことによって顧客が受け取るものは何か、顧客ベネフィットというものを具体的に提示すべきだ。
「これがこんなに入ってて、他には無いものなんですよ」
ではなく、
「こんな良いこと起こりますよ」
とアピールしなければならない。
これはついつい陥りがちな罠だ。私自身もともすればなおざりにしてはいないかと、肝に銘じておかねばならないことだ。
そして、自身も関わっている身としては、本書がこの業界の将来性について言及していることは実に喜ばしい。背中を押されている気分がする。
「美と健康」は人にとって永遠のテーマ。このビジネスが消えて無くなることはあり得ない。むしろ女性への富の集中化、少子高齢化によるシニア層の増加は、「美と健康」への消費の伸び代を示すものだ。
安定どころか、今後益々巨大な市場を形成していくことが見込めている化粧品・健康食品のD2C事業は、参入しない理由が無いと言えるのだ。

ところで、マーケティングに関して色々な情報が飛び交っている昨今でも、意外にまだまだ「商品が出来た。ECサイトやモールに載っけたら勝手に売れる」と思っている人は結構多い様だ。
そんな話がある筈がない。
失敗しない新規参入を果たす為には、本書はきっと良いガイドブックになってくれるだろう。
まずはミッション、そしてビジョン作りから。

化粧品・健康食品EC・D2C新規参入パーフェクトガイド
作者: 山口尚大
発売日:2022年9月1日
メディア:単行本  

 

 

【書評】10年前に現在の仕事環境と将来の課題を的確に描いた名著『ワーク・シフト─孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>』,

 

コロナの影響かもしれませんが、2022年現在テレワークやオンライン会議はもはや日常になっている。そんな日常を10年前に想像した人は一体何人いるだろうか?この本は10年前発行とは思えないほど現在の働き方を明確に予言した良本である。

さらに凄いところは、予言した環境における課題を「孤独」と「貧困」とはっきりと定義し、そのようにならずに生きていくポイントを以下大きく分けて3つ提案されており、どれも核心を突いている所です。

①1つの事を極める人が優遇される時代が来る、何かを極めるには最低10000時間必要である。しかし便利すぎるうえにこまめに時間を取られる今までの管理職(=ジェネラリスト)は淘汰され、時間をこまめに取られる事で何かを極める10000時間が取れなくなる。

②仕事含めて損得勘定の無い気の合う仲間やコミュニティを作っておくこと。1つの職場に凝り固まった意識がほぐれ、こういったコミュニティから新しいものが生まれてくる。

③消費主義(モノ至上主義・競争など)からの脱却をすること。これは私の大好きなミニマリスト思考です。

この3点もまさに核心をついており、著者の言う孤独と貧困から自由になる働き方の未来であると私は理解しました。10年前に書かれた本という事を頭に入れて読んで頂きたい、驚くほどこの本の通りになっているので、怖いくらい面白いです。

リンダ グラットン(著),池村千秋(翻訳)
プレジデント社
2012年

 

 

【書評】22世紀に人間の政治家はいない??『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』

最近露出が多い成田悠輔氏。色々とご活躍されていますが、彼の専門はデータ・アルゴリズム・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン、ウェブビジネスから教育・医療政策まで幅広い社会課題解決に取り組み、企業や自治体と共同研究・事業を行うという事である。その前提を踏まえると本書のタイトルに説得力が出てきます。

かの有名なハラリ氏が著書『ホモデウス』の中で今後はデータ教の時代になると述べているが、成田氏のこの著書はその内容にもう少し踏み込んだ内容である。

具体的には社会問題が複雑化したことにより現在の選挙・政治制度では追従できずに民主主義国家は2000年より成長が確実に伸び悩んでいる。その対策としてアルゴリズムを政治の世界へ入れることにより、民主主義を再構築(無意識民主主義)し、政策や意思決定をアルゴリズムに任せていくという手法を提案しています。
※こういう方策は一部中国ではやっているようです。

こういった世界が進むと政治家は実力主義ではなく、マスコット的な人気者=ネコ=人間は必要なしになるという結論に進んでいく。なかなか衝撃的な提案ではあるが、22世紀には実現している国はあるかもしれないと感じる1冊であった。

成田氏初の書著ですので興味があれば読んでみてください。なおベストセラーの『新人世の資本論』を合わせて読む&考えると、将来の資本主義や民主主義に対して深く考える事ができると思いますよ。

著者 :成田 悠輔
出版社:SBクリエィティブ
発売日:2022年7月6日

 

【書評】男らしくアウト・ローに徹するんだよ。そうすればいつかきっと唄の悪魔をとっ掴まえることができるさ。『唇にブルース・ハープ』

 

横浜元町で、インテリアショップ店員として働いているチー坊こと島田千代之助の前に、あの男が突然姿を現した。
「センパイ!」
エレキ・ギターはプロ級、カワサキのW1スペシャルで長髪なびかせてドド〜ン、酒を飲むと「死ぬ死ぬオレは自殺する」と口ぐせの様に言っていた、当時の不良たちの憧れの的だったセンパイが帰って来たのだった。
でも何故? あれからどこへ消えたのか教えてくれたっていーじゃねーかさ!
「いろいろあったんだ。あんまりブルーすぎてヒトにゃ話せねえ・・・・・」
そのセンパイが、突然チー坊に命令する。
「結婚しろ」
新宿へと出向き、
「おまえの婚約者だ」
と、センパイが示したその女性”U子”は、チー坊よりやや年上。凛とした雰囲気を持った美人であった。

「待ってるからね、いつまでも。いつか迎えに来てくれるまで」
十年間ずっと忘れていたその言葉が、男に急に重くのしかかってきた。U子が”気掛かり”になった。だから男はこの街に戻ってきたのだ。
「どうしてオレなのさ」
「おまえはオレをコピーしてた。オレとおまえはよく似てる。こんなことを頼めるのはおまえしかいねえんだ。それくらいのことがわからねえのかッ」

就業後のU子を尾ける二人。なんとか声を掛けようとするチー坊であったが、なかなか思う様にはいかない。
彼女を追って角を曲がると、逆にそこで彼女が待ち構えていた。
「ついてらっしゃい」
という言葉に従い、喫茶店へ。
何も話し出せずにいるチー坊に、U子が先に言葉を放った。
「どうしたの? 用があるんでしょう。あたしに」
煙草はハイライト、音楽はブルース、ブービー・ジョー! 共通の話題から打ち解け始めた二人。
だがそれは、U子もセンパイをコピーし続けていたことでもあったのだ。
「昔・・・・・十代の頃、熱烈な恋をしちゃったのよね」
「今でも、その男のこと・・・」
「忘れたわ・・・・・忘れたと・・・思う・・・・・」

身勝手に生きてきたブルースマンと、今でもあの頃を胸に抱えながら美しくなった女。そして、その狭間に立つチー坊。
それぞれの選択は?

原作は狩撫麻礼で、作画が中村真理子。その後、何作も共犯を続けることになる二人の初タッグ作品は恋愛モノである。
しかし狩撫麻礼である。一筋縄にはいかない。
楽家としてのセンパイの活動は、すれ違いの恋愛劇を意外な方向へと進めていく。
そしてラストには意表を突かれることになる。だが、個人的にはなんだかホッとさせられた。
ベイシティ・センチメンタル・ミュージカル。小粋な印象の物語である。

唇にブルース・ハープ
作者: 狩撫麻礼中村真理子
発売日:1984年5月20日
メディア:単行本