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【書評】何度も読んでしまう推理小説『名探偵の掟』

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本書を推理小説と呼んでいいのかどうかは意見の分かれるところかもしれない。とはいえ、探偵が事件を解決していくので推理小説ということでいいだろう。通常の推理小説は何度も読み返すということはない。1回読んで、その後の答え合わせのためにもう1度振り返って読むぐらいだろう。しかし本書は、時々読み返したくなってしまう。

本書は名探偵である天下一大五郎が、大河原警部とともに難事件を解いていく。12の事件があり、それぞれが天下一シリーズの1つの事件ということになっている。
ストーリーは、事件が起こり、天下一と大河原警部が、探偵と警察としての関係性の会話をする。その後、場面が止まり、登場人物である天下一と大河原警部がこのストーリーはどうなのか、このトリックはどうなのかと私見を話し出す。ある程度の私見が出たところで、再び場面が動き出して2人とも役を演じ切る。要は、作中で登場人物の視点を感じ取ることができるということだ。この作品に限らず、ドラマでも映画でもいいのだが私含めほとんどの人は作品を1つのものとして全体で見ていると思う。そうではなく、登場人物視点で1つの作品を感じ取ってみるという見方も面白いのではないかという気づきが得られる。

正直、読者は犯人を当てることなんてどうでもいいという指摘が出てくる。私も推理小説を読み始めの頃は、それなりに犯人を推理し、トリックも考えて読み進めていたこともあったがなかなか当たることがなく、いつしかその作業は行わなくなり、推理小説も読み進めるだけになっていた。もちろんその考えでも良いとは思うが、作者としてはできるなら読者にも推理をしながら読み進めてほしいと思うのだろう。読者が読者なりに推理をして、それを上回る視点のトリックを作者が示し喝采を浴びる。それこそが推理小説を発表する作者の喜びなのかと感じられた。

本書の作者である東野圭吾といえば、出す作品が軒並み映像化される、いわゆる小説界のヒットメーカーだ。そんな華やかな東野圭吾の作品群を考えると、2009年にドラマ化されたとはいえ本書は異端である。いつも真面目な作品を書いている東野圭吾にもこんな一面があったのかと思わずニヤリとしてしまう。

上にも書いたが、登場人物の視点や読者への要望など、普通の推理小説では分からない気づきが得られる。また、東野圭吾の意外性が感じられる。そして何より、天下一大五郎と大河原警部のやり取りや、トリックが面白くて何度も読んでしまうのだ。真面目な推理小説に飽きた方にオススメしたい。

 

名探偵の掟 (講談社文庫)

名探偵の掟 (講談社文庫)