哲学者と一人の悩める青年との対話を通して、アドラー心理学をわかりやすく学べる本。青年が葛藤を抱えながらも、哲学者と心を通わせ、友情が芽生えていく物語だ。
哲学者は『われわれを苦しめる劣等感は、客観的な事実ではなく主観的な解釈』だと言う。事実に意味づけをするのはいつでも自分なのだ。アドラー心理学では、トラウマの概念を否定しており、人は決して過去に支配されないという考え方だ。
一番心に残った言葉はこれだ。
●他者の評価を気にかけず、他者から嫌われることを怖れず、承認されないかもしれないというコストを支払わないかぎり、自分の生き方を貫くことはできない
評者は、アドラー心理学の『課題の分離』という考え方が好きだ。自分をよく思わない人がいても、それは自分の課題ではない。相手の気持ちを変えることはできないし、好きにならないのはおかしいなんて、エゴなのかもしれない。
教育や育児に関わる人には、【叱ってはいけない、褒めてもいけない】という考え方も必読だと思う。
褒める行為は、上から下への評価であり、相手を操作することになる。大切なのは、上司部下、親子等の人間関係を縦ではなく、横に捉えて、援助すること。それを『勇気づけ』と呼ぶのだと。
今日から、自分の後輩や、子供に、『ありがとう』と反応してみよう。すごいねと褒められるより、きっと魔法のコトバだ。
青年が対話を重ねながら、心を開いていく様子も何だか愛らしい。評者も、青年が投げかける疑問に共感しながら、いつの間にか、哲学者の言葉に引き込まれてしまった。
心理学に馴染みのない人にも分かるように書かれており、子供が読んでもいい。
嫌われるというのは、いまここを自由に生きている証拠なのだと思う。