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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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愛あるオブザーベーション『新装版「エンタメ」の夜明け ディズニーランドが日本に来た日 』

ニーズが多様化する昨今、仕事をする上で“顧客目線”はとても重要だ。あらゆる業界・職業において軽視することはまずないだろう。しかし主観で恐縮だが、近年相手のことを考えることの大切さが当たり前化した結果、表層的な意味合いで消費されているように感じるのは私の勘違いだろうか。ビジネス書籍やビジネスセミナーに気軽にアクセスできる分、顧客の目線になって考えるという行為が言葉だけ先行し、本質的な価値が伴っていないようにも思える。決して悪意がないことは重々承知の上で、少なくとも私の身近な場所からはそう感じる。

本書に登場する小谷正一とその右腕である堀貞一郎、彼らの戦友、そしてウォルター・イライアス・ディズニー。彼らの顧客に対する考え方と姿勢そして行動は、率直に言って素敵だった。一つ例を挙げるならディズニーランドを日本に誘致する際、ディズニー幹部はプレゼンテーションを受けるため日本を訪れる。堀貞一郎はリムジンバスでの送迎中、バスの中にある小さな小さな冷蔵庫から、リクエストされたお酒を次々と取り出してみせた。なぜそんな小さな冷蔵庫で自分たちのリクエストしたお酒が次々と出せるのか驚いたディズニー幹部等は、“マジックボックスだ”と呟く。種明かしをすれば、事前に彼らの日頃口にするお酒を調査しそれ等を冷蔵庫にあらかじめ準備しておく。言葉で綴ればそれだけのことだが、果たしてここまでのことを私たちはするだろうか。普通はしない起こらない、だからこそ魔法のように映る。

本書は顧客目線とは“愛のあるオブザーベーション”であること、そこから生まれる行動は“魔法”になりうることを教えてくれる。私の感じた日頃の違和感はおそらくオブザーベーションから愛が抜け落ちてしまっていることによるものではないかと考えている。罠を仕掛けて利を得たい訳ではなく、顧客に幸せになってほしいための活動こそが“顧客目線”なのだ。本書はディズニーを日本に誘致するための、日本史上最大規模のプレゼンの舞台から始まり、登場人物たちのルーツを振り返っていく。彼らの仕事に関わることができた当時の方々を羨ましく思う、そう思わざるを得ない一冊だ。