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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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理路整然と経営を行い、理路整然と間違い、理路整然と潰れていく。 『安売り王一代 私の「ドン・キホーテ」人生』

 

 ドンドンドンドーンキー ドンキホーテー♪


読者の皆さんは「驚安の殿堂 ドン・キホーテ」に行ったことはあるだろうか。私は高校1年生の時、部活用具の入った大きい荷物を持って店内に入り、積み上げられた洗剤のタワーを豪快に倒した記憶がある。そして店側の責任にしたい私は「なぜ、こんなにも狭いのだ・・・」と店側を心の奥で責め立てた。

今、考えてみると、明らかに店内の構造が一般的なお店と違うのだ。狭い通路、高らかに積み上げられた商品、手作りポップの質、見たこともない商品など・・・。東急ハンズ、Loftとも違う。なぜなら、大きい荷物を用いて店内の商品を崩し散らかした記憶があるのは「ドン・キホーテ」だけだ。そして、店内に入るとちょっとだけドキドキするのも「ドン・キホーテ」だけだ。

そんな「驚安の殿堂ドン・キホーテ」は東京都府中市に第1号店を開業した1989年以降、26期連続(2015年時点)増収増益を達成している。創業者の安田隆夫氏は2015年6月末に大原孝治氏にCEO職を譲り、満65歳で引退してしまった。これは偉業である。創業者の安田隆夫氏は一体、どんな人物なのか、「驚安の殿堂 ドン・キホーテ」とは何なのか、どうして私は商品を倒してしまったのか・・・、これは私の責任なのか・・、私は知りたくなり、本書を開くこととなった。

本書には安田隆夫氏の泥と汗にまみれた創業人生が書かれており、「驚安の殿堂ドン・キホーテ」の前身にあたる「泥棒市場」の創業、2004年に発生し死傷者も発生した放火事件、深夜営業への住民による反対運動など、企業存亡の危機に直面し、何度も絶望の淵に立たされた「きれい言」無しの出来事が詳細に書かれている。

特筆すべきことに、安田隆夫氏は29歳で「泥棒市場」を開業するが、それまでも長い迷宮を歩いている。不動産会社に入社も倒産、麻雀で日銭を稼ぐなど無頼の生活を長く送っていた。
「何をやってもうまくいかない。組織にも適応できず、金もない。女にももてない。大きなことを成し遂げたい、でも、何をしていいかわからない。」
そんな「もやもやした気持ち」を抱えた安田氏は、処分品やサンプル品を安価で販売する「バッタ屋」という全く関わったことも、ノウハウもわからない仕事にたどり着く。

その当時、大手のチェーンストアが隆盛を極めており、資本も人材も無い「泥棒市場」には勝てる要素が一つも無かったが、安田氏はそこで「大手の逆を突く」と考える。
それは「ナイトマーケットの偶然の開拓」や、「商品棚を取りにくい、見にくい、探しにくい」という流通の教科書をすべて否定する手法をとることだった。そして「素人がつくったやってはいけないお店の見本」がなぜか繁盛していく・・・


この本で書かれていることは「業界の常識」を信じない「素人」の戦いの記録であり、そこから学んだ経験則が背景とともに書かれている。

安田氏は、巨大な資本、人材、圧倒的なシステムとノウハウの蓄積をもつ先発企業の成功実績を「業界常識」と定義し、業界常識とは「勝利者の論理」であって「勝利のための論理」ではないと説いている。先発企業と同条件でもないのにも関わらず、「業界常識」を正しく守ったために、正しく潰れていくのだと。

では、「素人」は何を信じて、「業界の常識」と戦うのか。
それはお客様の「人の心のありよう」と安田氏は主張する。
「人の心のありよう」こそ、新たな有望マーケットの母胎であり、勝負の必勝法は相手の細かな表情や目線、しぐさを見逃さず、徹底的にその心理を読み取ることに尽きる。
時代は変化していき、お客様の求めているものも、「心のありよう」も変化していく。
それに対応していくことが小売業の最大の武器であると。


これを読んだときに、私が今まで読んでいた「○○の法則」や「自己啓発本」のことを考え直した。「成功法則」など、ただの「偶然の結果論」ではないかと。だれかの「成功した法則」であり「成功するための法則」ではないのではと。

そんな「素人」の安田氏の経験則に基づいた「知恵」がふんだんに詰まった良書である。

ちなみに、私が豪快に破壊した商品陳列タワーなど、店内の仕組みも書かれているので、読むと倒壊させた私が100%悪いことや点内に入るとちょっとドキドキしてしまう理由がきっと理解できると思われる。

自分の責任逃れのために興味本位で選んだ本書に、もっと大事なことを教えてもらった。


私は、これからも商品の高い壁に囲まれた狭い店内をワクワクしながら冒険する。