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堀江貴文イノベーション大学校(通称HIU)公式の書評ブログです。様々なHIUメンバーの書評を毎日更新中。

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『劇場』

『劇場』著者:又吉直樹(新潮社、2017/5/11)

作者が又吉氏ということもあり、どうしても主人公と作者がかぶってきて想像が膨らむが、その要素を一度無視して感じたことを書きます。
これは劇団の脚本家としての夢を諦め悪く追う男・永田と、東京になんとなく出てきて専門学校に通う女・沙希の恋愛の話。

二人が出会ったばかりのころ、お互いがなぜかピンときて、お互いが自分がもっていない魅力にひかれあっているシーンが、物語が終わりに近づくにつれて切なく思い出される。お互い似ていないからこそ惹かれあい、似ていないのにお互いだけが理解者なんじゃないかと思うのは、恋の奇跡で、まさにこの世の春。

でも時間は過ぎる。恋に落ちて、恋が続く春は一瞬だ。
年月が経つにつれ、お互いが人生に求めるものは変わってくるし、人生に対する見方が違うこともわかってくる。
違う人間なんだから当たり前なんだけど、恋愛においてかなりの確率で起こるそのすれ違いは、ただ寂しい。どちらかが悪いわけではなく、しょうがないことだからこその寂しさだ。
ずっと一緒にいた人と離れるのはすごく寂しい。でも一緒にいることもしんどい。そんな局面を二人も迎える。

この物語は、どこにでもある、とてもありふれた、普遍的な話だと思った。
だからこそ少なくとも私にとっては、自分の物語だと感じられた。ときに永田に、ときに沙希に共感しながら、一気に読み終わった。

二人が別れる最後、永田が沙希に自分が成功したらしてやりたいことを語るシーンは泣けてくる。だってそれがきっと実現されないことを、二人ともわかっているから。でもそのときの永田は嘘を言っているつもりもなく真剣だし、その気持ちは沙希もわかっている。
すごく嫌いになるわけでも、憎くなるわけでもない。それでも好きな人と別れることって、誰にでもあると思う。

そんなよくあることだからこそ、こんなに丁寧に書かれると、自分の心の奥底にまで触れられたような気持ちになる。
ストーリーを説明しようと思ったらおそらく一瞬で説明できる話だ。それでもこの二人の話として、一冊読まないと味わえない世界があるのだから、『劇場』は小説として大成功していると思う。